「それでもう描いてるんだ? 早くない?」
 隣から言ったのは別の友達。美術部でも一緒の萌江(もえ)だ。
 萌江は浅葱とは違ってイラストも好きだった。漫画もたまに描いていてそれはなかなか面白いのだった。
「そうかな。構想は早いほうが良くない?」
 付け合わせのほうれん草のソテーを摘まみながら浅葱は言う。
 萌江はシンプルに「そうだけどさー」と言う。割とギリギリ体質なのだ。
 サボるわけではないけれどなかなかスイッチが入らないのだと言っている。
 それは勉強も同じで夏休みの課題も、夏休みが明けても終わっていなかったくらい。先生に散々つつかれてやっと終わらせたと言っていた。
 勉強ができないわけではないし、美術部のほうもヘタではないのに。単にそうでないとできないというだけ。そこはちょっとした欠点かもしれなかった。
「浅葱は真面目だもんね」
 綾がフォローしてくれた。浅葱はそれに嬉しくなってしまう。
 真面目過ぎて固い子だとは思われたくないけれど、やっぱり好きなことにしっかり取り組んでいると言ってもらえるのは嬉しいから。
「秋季賞はなにかしら入賞したいもん。しっかり練っておこうと思って」
「入賞? 例えばどんな?」
「そりゃあ最優秀賞とか、佳作とか、入選とか……普通の賞だよ」
 友達たちに賞のシステムについて簡単に話す。
 そう、今回はなにかしら賞が欲しかった。まだ一年生。ヘタではないと思っているけれど、なにしろ技術的は当たり前に先輩が上だ。だから先輩のほうが評価されて当然だとは思う。
 けれど負けたくない。
 最優秀賞なんて無理だろう。
 無理、だろうけど。
 あわよくばという気持ちはあるし、それに現実的なところだと一番下の賞、入選でもいい。とにかくなにか欲しかった。
 それは純粋に自分の絵を評価してほしい気持ちである。
 でもそれだけではなくてこれもやっぱり。
「そういえば部長さん……蘇芳先輩、だっけ? 夏前にいい賞を取ったとかで表彰されてたよね」
 不意に綾が蘇芳先輩の話を出してきて、浅葱はどきっとした。
 綾は勿論、浅葱の片想いのことを知っている。だからどきりとしてしまったわけ。
 それはつまり、浅葱がどうして賞が欲しいかということもわかってしまっているということだろう。
「う、うん。特別賞。特別賞が三本だっけかな、あって。それに選ばれてたよ」
「ああ……集会で表彰式があったもんね」
 ほかの子も少しは覚えてくれていたらしい。なんだか自分のことのように嬉しくなった。
 美術部仲間の萌江も「そうそう! 美術部でもちょっとしたお祝いをしたんだよ」と話す。
 先輩のことが話題に出たのにはどきどきしてしまうけど。
 でも楽しい。こういう話は。
「それなら蘇芳先輩にいいところを見せないとね。気にかけてもらわないと!」
 やっぱりこういうほうへ話が進んでしまった。ほんのり頬が熱くなる。
 ぱくりとご飯を一口食べる。誤魔化すようだったけれど、そうでもしないと恥ずかしい。