喉の奥まで跳ね上がった心臓は、そのままどくどくっと早い鼓動になる。
 気付いてくれた。
 筆跡だけではない。
 浅葱がこういうふうにしてくれる、と確信してくれたのだ。
 それは単に部員同士のやりとりより少し上かもしれない。
 浅葱のことを知ってくれているからこそ、そう思ってくれることなのだ。
 急に顔が熱くなってきた。
「……あ、ありが……とう、ございます」
 声はもにょもにょしてしまった。それに蘇芳先輩はまた笑うのだった。
「なんでだよ。もらったのは俺だろう」
 そうだった。
 ついお礼を言ってしまったけれどずれたことであった。恥ずかしくなってしまう。
「いや、でもすげぇ嬉しかったよ。ああ、気遣ってくれてるひとはいるんだな、って」
 浅葱は顔を上げた。再び蘇芳先輩と目が合う。優しい瞳はその言葉の通り、嬉しそうな色になっていた。
 蘇芳先輩も負担になっていなかったはずはないだろう。
 部長としてのつとめで、自分が言い出したのだし、やるべきことではあったのだろうけど、当たり前のように負担に思わないはずがない。
 本当なら自分の絵にずっと集中していたかっただろうし、面倒だとか、もしくは萌江たちのミスを恨む気持ちだってないはずがない。
 でもそんな様子、少なくともちっとも表に出さないのだ。そこも浅葱が尊敬し、そうなりたいと思っているところである。
 おまけににこっと笑って、手のチョコの袋をちょっと振った。
「勿論それが六谷だったこともさ」
 悪戯っぽく言われたそれは、さっきと同じように無邪気ともいえるものだった。
 それなのに浅葱の頬を簡単に熱くしてくる。
 そんなことを言われればくすぐったい。
 おまけに自分の気持ちが蘇芳先輩に筒抜けになっているように感じてしまう。
 いや、……知られちゃってるんだろうな。
 思ってしまい、もっと顔が熱くなった。