「難しかったら見えるようにしたらいいよ。たとえばカレンダーを見てね、この日付までにはどのくらいの作業を終えていたらいいだろうなって書き込んで……」
 なんだか嬉しい気持ちにもなりながら浅葱は自分の手帳を出そうとした。
 スマホのカレンダー機能は便利でそちらも使っているけれど、学校内ではスマホの使用が制限されているので紙の手帳があると便利なのだ。
 よってミニサイズのものを持っていた。手帳はバッグの中に確かにあったのだけど。
「……あれっ」
 浅葱はちょっと声をあげてしまった。
「どうしたの?」
 萌江も不思議そうな声を出す。
 ごそごそとバッグを探ったけれど見当たらなかった。
 ペンケースがない。ペンや消しゴムなんて文具がまるっと入っているもの。
 ああ、そういえば部活のときに使ったんだった。うっかり置いてきてしまったのだろう。
「ごめん、ペンケース、部室に置き忘れたみたいだから取ってくるね。ごめんだけど、先帰ってて?」
 それだけ言い残して浅葱はきびすを返した。たっと地面を蹴って軽く走り出す。
 まだそれほど学校からは離れていなかった。数十分のロスで済むだろう。
「気を付けてねぇ」
 うしろから萌江が声をかけてくれるのを背に、浅葱は急いで学校へと後戻りしたのだった。