帰り道。昇降口を出て、校門を出て、駅までの道を歩きながら萌江はそのとおりのことを言った。
「私、適当にしすぎだったと思う」
 その声には心底、後悔が滲んでいた。浅葱は「そうだね」とも言えずになんといったらいいか困ってしまった。
 浅葱が答えられないのをわかっている、という顔で萌江は浅葱を見て困ったような顔で笑った。
「だから、できないならもういいやって投げ捨てちゃおうかと思ってた。それって今まで課題とかほかのこともそうだったかもしれない」
「うん」
 萌江が話したい、と思ってくれていることがわかったので浅葱は単純に相槌を打った。
 浅葱が聞いてくれるという姿勢になったのを感じたのだろう。萌江はちょっと視線を上げた。
 まだ空は明るい。でもあと三十分もすればオレンジ色が濃くなってくるだろう。
「でも蘇芳先輩は言ってくれた。できないならできないなりにやってみろって」
 それは最初から計画を立て取り組んできた浅葱にはわからない気持ちだった。
 でも今回のことがあって、だからこそ萌江は気付くことができたのだろう。そしてそれに気付けたことはとても良いことだったはずだ。
「蘇芳先輩の時間も奪っちゃった。すごく悪いことをしたなって思う。それは自分の作品に手を抜いたことだけじゃなくて、部活全体の邪魔をしちゃった」
 それは反省。萌江は小さく息をついて、でも浅葱の顔を見た。その顔は後悔したことも落ち込んだことも、ちゃんと飲み込んで先へ進んでいる顔をしていた。
「だから、次はちゃんとやろうって思う」
 萌江のその顔と言葉。浅葱はわかった。
 萌江がこういうふうになったのは蘇芳先輩のおかげもあるのだ。
 蘇芳先輩が部長として真剣に助けてくれたからだろう。その姿勢を見てなにも思わないわけがない。
 ああ、蘇芳先輩は本当に、部長として、先輩として、すごく立派なひとだ。
 浅葱はまた心を熱くしてしまった。
「計画的にっていうのは苦手だけど……」
 そのあと萌江はちょっと困ったように笑った。気付いて反省したとはいえすぐに行動を変えるのは難しいことだ。
「そうだね。計画を立てるって難しいよね」
 浅葱も笑った。ただし今度のものは困って、ではなく、なんだかほのかにあたたかいような気持ちでだった。
 蘇芳先輩のように、なんてふうにはとんでもない。自分にそんな立派なことはまだできない。
 でも自分のしていることを元にして、こうしたらどうかな、とアドバイスするということならできる。
 蘇芳先輩のような立派なひとになるためには、そういうところからはじめればいいのだろう。