もう一度、お礼を言ってペットボトルを開ける。少し温度が冷めていたけれどかえって飲みやすくなっていた。
 今度、ペットボトルの中身・甘いミルクティーは浅葱のお腹をあたためてくれる。
 さっきは手をあっためてくれて、今度はお腹の中から。寒くなりつつあるときには両方とても嬉しいものだった。
 蘇芳先輩はいつもこうなのだ。こうしてさりげなくあたたかな優しさをくれる。
 そういうところが好きだし、以前よりどんどん『好き』だという気持ちは強くなっていっていると感じられていた。
 ミルクティーを飲みながら、そしてぽつぽつと話をしながらライトアップを見た。それはただの街の風景なのにそんなことはまったくない。なにより特別で美しいものなのだ。
 ふと、その中で蘇芳先輩が言った。
「六谷、結構根を詰めてただろう。少しでも息抜きになれば、と思って」
 え、と思った。
 根を詰めていた、はその通りだろう。毎日のように部室に通って、それも下校時間ぎりぎりまで作業をしていた。それを見てくれていたのだ。
 部長としてそれは当たり前のことかもしれないけれど、そんなの。
 ……嬉しいに決まっている。
 おまけに『息抜きになれば』。こっちはもっと嬉しすぎた。
 だってこれは部活の活動の一環ではない。
 それに誰にでもしていることではないだろう。
 つまり自分は、後輩としてだって幾らかは特別に思ってもらえて、気遣ってもらえているのだ。
 今度は頬まで熱くなってしまう。
 ミルクティーであたたまった体温が、頬を火照らせたようだった。
「ありがとうございます。いい作品にしたいって一生懸命になってて……でも、頑張るだけじゃ疲れちゃいますよね」
 ちょっと横を見ると蘇芳先輩も浅葱を見ていた。視線が合ってどきどきはしてしまうけれど、今は奇妙に落ちつきもあった。
 どうしてかわからない。
 ライトアップを見て、同じ飲み物を飲んで。
 『一緒にいる』ということを強く感じられる。
「ああ。たまにはこうして綺麗なものを見たりして、肩の力を抜けたらなって」
「はい。とっても綺麗で……」
 言いかけて、ちょっとためらってしまった。
 言うのは恥ずかしい。
 けれど折角連れてきてもらったのだ。しかも特別に、だ。
 こくっと唾を飲んだ。思い切って口に出す。
「先輩と『綺麗なもの』が見られて、嬉しい……です」
 流石に恥ずかしくて、視線はライトアップに向けてしまった。
 それでも言いたいと思ったので勇気を出した。
 蘇芳先輩がこちらを見ている気配がする。
 ちょっと心配になった。先輩はどう思っただろう。
 どきどきしてくる。
 特別な気持ちだと思われただろうか。そこまではっきりとしたものではないけれどとりあえず『好意』を含む言葉ではあるから。
「……俺も嬉しいよ」
 ふっとその場の空気が緩んだ。それについ蘇芳先輩のほうを向いてしまい、また頬が熱くなってしまった。
 なんて優しい目をしているのだろう。
 ライトアップより、ミルクティーよりあったかいその目。
「昨日、ライトアップをやってるって知って思ったんだ。……六谷に見せてやれたらな、って」