学校の校門を出てからもずっと緊張したままだった。隣を蘇芳先輩が歩いている。たったそれだけのことに。
 隣同士歩くなんて珍しいというわけではない。学校でだって、廊下ではちあわせれば「一緒に部室まで行くか」なんてことだってある。
 けれど今はちょっと状況が違って。
 どこまで行くのかわからないけれど『一緒に帰っている』という形にもなるのではないか。
 そう思ってしまって余計にどきどきしてきてしまった。
 実際、先輩は言った。
「なるべく遅くならないようにするから」
 そんなふうに言われること自体、一緒に帰る……いや、家まで送ってくれるとかそういう……いや、そこまでは。
 色々考えてしまって、浅葱の心はちっとも落ちつけやしなかった。
 校門を出て、先輩が向かったのは駅のほうだった。蘇芳先輩も浅葱も電車の乗る方向は真逆だが、電車で通っているのでそれは自然なことである。
 駅に向かうまでの間、蘇芳先輩はいつも通りに話していた。
 「提出したらまずご苦労さん会をしようか。みんな作品作りを頑張ったからな」とか「そのあとはちょっと反省会……じゃないけど取り組んだことの振り返りをしようと思うんだ」とか、そういう、部活のこと。自然な話題だったので浅葱もいつも通りに話すことができた。
 そろそろ薄暗くなってきた帰り道。まだ冬にならないから真っ暗になるにはもう少しあるだろう。
 けれど夕日のオレンジ色は藍色に変わりつつあった。
 行くほうはちょうどオレンジ色が濃いほうだった。
 綺麗……。
 心の中で感嘆して、数秒見つめてしまった。
 蘇芳先輩の絵、浅葱が初めて『出会った』あの絵のような夕日だった。
 あの絵は夏の日の絵だったから、日の光の感じは少し違う。
 でもあったかさは同じだ、と思う。
 夕日からあたたかさを感じるのは何故だろう。理由はわからないけれど、包まれているとなんだか安心すると思う。
 だからああいう絵を描く蘇芳先輩が好きなのかな。
 そう思ってしまってはっとした。自分の思考に恥ずかしくなる。
「六谷、ミルクティー好きか?」
 不意に尋ねられて浅葱は咄嗟に「はい!」と答えていた。実際、ミルクティーは好きだ。
 しかしその質問の意味がわかったのは数秒後だった。