「そうだったの。部活をやってるとなかなかバイトは難しいと思うけれど、上手に使えればいいものね。蘇芳くんは特に部長なのにえらいわ」
「そうですよね! 私も見習いたいです」
 自分が褒められたし、それに蘇芳先輩のことはもっと強く褒められたので浅葱は二重の意味で嬉しくなった。
 蘇芳先輩ほどなんて、とんでもない。まだまだ遠く及ばない。
 けれど少しは頑張っていると思ってもらえたのだ。嬉しくなるだろう、それは。
「そうね、先輩としてもみんなの模範になるような存在だと思うし……ああ、蘇芳くんにもそういう存在がいたわ。それでかしら」
 水野先生がふと話題に出したこと。唐突だったので浅葱はちょっときょとんとした。
 けれどすぐにはっとする。
 ちょっと前、気になったことではないだろうか。これは。
『蘇芳先輩、尊敬してるひとがいるんだって』
 部活の時間に萌江から聞いたことだ。詳しいことはほとんど聞けなかったけれど。
 少しはそのことについて知っているらしい萌江にもっと聞いてみようかと思ったけれど、なんとなく聞きづらかった。
 いや、蘇芳先輩に対する片想いなんてよく知られているのだから今更だけど、それでも聞きづらい。

『そのひとのことを、どう思ってたんだろう』

 そのとき浅葱が思ってしまったこと。そんな気持ちが全開なことなんて簡単に聞けるものか。
 でも、今なら。
 水野先生相手なら。
 ちょっと聞くくらい、いいのではないだろうか?
 今、まさに目の前で話題になっているのだし不自然でもないだろう。
 よって浅葱はどきどきしつつも口を開いた。
「そうなんですね。先輩の先輩、とかですか?」