最終日のお祭バイトのあとは綾のお父さんが「ささやかだけど打ち上げだ」なんてピザを取ってくれて、みんなで食べた。それはとてもおいしかったし楽しかったけれど。
 たった二日では告白だのなんだのの決意なんてできなくて、結局おしゃべりをしてピザと、あと綾のお父さんが出してくれた和菓子を食べて終わってしまった。
 一応、少しだけ話はできた。
「お疲れ様」
 打ち上げも終わって帰るとなったとき。蘇芳先輩は浅葱に話しかけてくれたのだ。
「お互い、頑張ったよな。六谷も初めてのバイトなのにすごく頑張ってて……」
 こうして先輩はまた浅葱の良いところを見てくれて、伝えてくれるのだ。
「先輩こそお疲れ様です! たくさん助けていただいてしまって、ありがとうございました」
 お礼を言いつつも、ちょっとどきどきしていた。
 このあと、なにか、とか。そう思ってしまったのだ。
 けれど特になにも起こらなかった。
 少しだけ雑談をして「じゃあ、明日からはまた美術部で頑張ろうな」と蘇芳先輩は帰ってしまった。蘇芳先輩はここから駅に行って、電車に乗って帰るのだ。浅葱の帰るのとは逆方向であったし「一緒に帰りましょう」というのも不自然だ。
 綾の家、お店の前で別れて、先輩が見えなくなってから浅葱はちょっとだけ、心の中でだけであったけれど、ため息をついてしまった。
 絶好のチャンスだったかもしれないのに。ふいにしてしまったのかもしれなかった。
 『なにか起こるのかもしれない』なんて期待して待っているだけではいけなかったのではないか。今更後悔してしまう。
 でも後悔していても仕方がない。
 告白どうこうだって、すぐじゃなくてもいい。
 浅葱は帰り道、自分に言い聞かせた。
 きっとチャンスやタイミングはまた来てくれるだろう。
 だって、明日からも部活で一緒なのだ。一緒に過ごしていれば、きっと。
 そう思っておくことにして、明日からはまた気持ちを切り替えて、学校と部活を頑張らないと、と決意したのだった。