秋祭りの三日間は順調に進んで、終わった。
 残りの二日間もやはり蘇芳先輩が一緒で、違う意味で緊張してしまった。
 あれから変わったことはなかったけれど。蘇芳先輩はいつも通りの『先輩』であったし、なにか言われるとか……そういうことも起こらなかった。
 平和に終わってしまい、最後の日。夕方に終わったお祭りのあと、綾のお父さんが「ありがとう。とても助かったよ」とお給料袋というものをくれた。
 お金だけが目当てではなかったけれど、やっぱり嬉しくて。「ありがとうございます!」とお給料をいただく声は弾んでしまった。
 でも手に入ったのはお金だけではない。
「私こそありがとうございました。とてもいい経験ができました」
 ぺこりとおじぎをして言った浅葱に、綾のお父さんはにかっと笑ってくれた。
「そうかい。そりゃ良かった。じゃ、またなにかのときにはぜひ手伝ってくれよ」
「はい! ぜひ」
 そんなお祭の終わり。
 一日目にあったあのことは綾に話していた。綾は嬉しそうに顔を輝かせてくれた。
「なにそれー! それ絶対、脈ありだって!」
 最早、綾のほうが乗り気のような様子になる。浅葱はあわあわ言った。
「で、でも単に、後輩ってだけ言うのは悪いとか思ったからかも……」
 それは自分への言い訳だったのだけど、綾にはばっさりと切って捨てられてしまった。
「そんなわけないよ! 浅葱は興味ない男の子に『彼氏みたいって言われて嬉しかったよ』なんて言う?」
 そう言われてしまえばその通りなのだけど。
「それはないけど……だからって」
「蘇芳先輩も同じだと思うけどなぁ。どう? いい機会だし告白とか……」
 後ろ向きになってしまっていた浅葱を、綾は焚きつけてくる。その提案にはまた顔が熱くなってしまった。
 確かに可能性はなくもない……のかもしれないけれど、だからといって。
 でも浅葱も自分で感じていた。
 蘇芳先輩を好きだと思う気持ち。それがもう、ほんのりとした恋心や、先輩として憧れる気持ちを通り越してしまっていることに。
 蘇芳先輩が自分を好きになってくれたらいいな、と思う。
 いや、そうなってほしいな、と思う。
 だから今の状況はとても嬉しいものなのだけど……告白、というのは。
 今までしたことがないし、勇気なんてすぐ出るものか。