「手伝うよ。あんこの団子が三本とみたらしが二本。おはぎが三個。テイクアウトだよな?」
「は、はい!」
「俺が包むからお会計を頼む」
 少し離れた場所だったのに聞いてくれていたらしい。浅葱はやるべきことを言われてちょっとほっとした。
 あたふたとまだ慣れない手つきで金額を計算して、それをお客さんに告げてお金を受け取る。
 蘇芳先輩が「ありがとうございます」と包んだお団子とおはぎを差し出した。驚くべき速さであった。浅葱はまた感心してしまう。
「ありがとうねぇ。このお店のお彼岸限定のおはぎが好きでね。勿論お団子は普段から好物だし」
 包みを受け取ったお客さんはにこにこ笑った。初老の女性だったけれど、そのあととんでもないことを言われて浅葱は違う意味で仰天した。
「かわいらしい店員さんだねぇ。彼女さんかい」
 かわいらしい……も嬉しいけど、そのあと。
 彼女!?
 どきん、と心臓が跳ねた。一気に顔が熱くなる。
 そんなふうに見えたなんて。言われてしまったなんて。
 どくどく速い鼓動を抱えながら、ちらっと蘇芳先輩を見てしまった。
 直後、後悔する。
 蘇芳先輩もこちらにちらっと視線をやっていて、ばっちりと目が合ってしまったのだから。
 そのかちあった視線は、かぁっと浅葱の頬を熱くした。先輩におかしく思われていないことを祈るばかりである。
「ありがとうございます。でも、後輩なんですよ」
 後輩。
 蘇芳先輩の言ったこと。にこやかに言っていたけれど、そしてそれは紛れもない事実だけど。
 浅葱の心がずきっと痛んだ。
 なに、そんな、私ったら。
 彼女、って見てもらっただけで嬉しくて、満足しておかないといけないところなのに。
 後輩、っていう当たり前のことを言われただけなのに心が痛むなんて、図々しいよ。
 そう自分に言い聞かせたけれど、痛みはどうしようもなかった。
「そうなのかい。悪かったね。仲睦まじい様子だと思ったものだからね」
 女性はころころ笑った。そして「ありがとう。また来るね」と、包みを大事そうに持って帰ってしまった。
 しかし浅葱は「ありがとうございました」なんて、お見送りの言葉を言うことができなかった。さっきのことが衝撃的すぎて。