浅葱は首を傾げた。
 売り子さんのヘルプ? 聞いていないけれど……。
 でも急に決まったとかそういうことかもしれない。なので浅葱は「お手伝いしてくれるひとが増えるならいいことなんじゃないの?」と何気なく言った。そしてそのまま外へ出ていってしまったのだが……そこで仰天した。
「あれっ、六谷じゃないか!?」
 思わず心臓が止まるかと思った。
 だってそこにいて、向こうもおどろいたような顔をしたそのひと。
 綾真さんが着ていたのと同じ、作務衣にエプロンをつけてカウンターに立っていたのは。
 ……蘇芳先輩ではないか。
「すっ、蘇芳、せんぱいっ!? どどど、どうして……」
 浅葱の声は思いっきりひっくり返った。どっどっと心臓が一気に速い鼓動を刻みだす。
「こんなところで会うなんて……思わなかったよ」
 あちらも相当驚いたらしい。目を丸くしていた。すぐにいつもの優しい笑みに戻ったけれど。
「ふふ、蘇芳先輩はお兄ちゃんの知り合いなんだってよぉ」
 うしろから追いかけてきた綾が悪戯ぽく言った。
 綾真さんの部活の知り合い!? 中学で一緒だったとかだろうか。
「だ、黙ってるなんて酷くない!? そういうことなら教えてくれても……」
 思わず綾を引っ張ってこそこそ言っていた。まさかいきなり心臓を止められるようなことをされるなんて。
 でも綾は「ごめんごめん」と笑顔のまま言っただけだった。
「でも私も聞いたのは数日前なんだって。お兄ちゃんも中学校は別だったけど……なんか、違う学校の交流会だか、そういうので知り合って友達になったとかなんとか」
 それはフンワリしたものだったが、ないことではないだろう。しかし偶然にもほどがある。
 綾にそう言われてしまえばもう責められないではないか。それに綾だって、浅葱によかれと思って黙っていてくれていたのかもしれないし。
 そんな浅葱の肩を、綾がぽんと叩いた。
「まぁまぁ。折角の偶然なんだよ。生かしたらいいよ!」
「生かすってなに!?」
 声がひっくり返った浅葱に構わず、綾はにやにやした。
「そりゃあ、同じ仕事をして仲を深めるとか……」
「わ、わぁ! そんなこと……あっ、あんまり話してたらいけないよね! 戻らないと」
「もー、嬉しいなら嬉しそうにしなよー」
 綾はちょっと膨れたけれど、それでも「頑張りなよ」と言ってくれたのだった。