「できるできる! 簡単だよー。毎年やってるし、私やお兄ちゃんだって小学生の頃からやってるから」
 浅葱が前向きなのを知ったのだろう。綾の顔が輝いて、詳しく話してくれた。
 綾のお兄さんも参加するらしい。綾のお兄さんは綾真(りょうま)さんという。高校三年生。重色高校とは違う学校に通っているそうだ。だから綾の家を訪ねたときくらいしか顔を合わせる機会のないひとだ。
 きっとこのお兄さんが将来は綾の家のお店を継ぐんだろうなぁ。
 親友相手とはいえひとの家の事情などは知らない。けれどそういうものなんだろうな、と思っていたし別に思っているだけなら失礼でもないだろう。
 そんなお手伝いメンバーのすることは、基本的には売り子。秋祭り限定の和菓子を売る役目だそうだ。
 プラス、イートインスペースへ注文された和菓子やお茶を持っていく。そういう仕事も追加されるかもしれない。そういう内容だと綾は話した。
 それならできなくもないかもしれない。
「難しいことは頼まないし。ぶっちゃけ明るい声で『いらっしゃいませ!』って言ってくれるだけでもいいんだよ」
 綾は言い切った。
「そ、そういうものなの?」
「そういうものだよ! 挨拶と笑顔が一番大事なんだからね」
 それで、あれよあれよという間にお手伝いは決まってしまったのである。
 一応、家でお母さんに許可は取った。でもあっさり「いいんじゃない?」と言われてしまった。
「綾ちゃんのところなら安心だし。いい経験になるかもしれないわ」
 ほっとした。確かにバイトに近いようなことなのだ。知り合いの元であるほうが安心できる。
 実際バイト、なのだと思う。綾は「あまり多くないけどバイト代も出すってお父さんが言ってたから」と言っていた。
 お金目当てではないが報酬がもらえるというのはやはり魅力的で。
 いい経験になる、綾の手助けにもなる、そして純粋にちょっと楽しそう。
 そんな理由で浅葱は臨時の和菓子屋さんになることになったのだった。