エスカレーターで上へ運ばれながら浅葱は下のほうを見て、見守ってくれる蘇芳先輩を見た。目が合ってちょっと恥ずかしくなったけれど、ぺこりとおじぎをしておく。
 やがてホームへついた。電光掲示板を見ると電車が来るまでにはあと三分くらい。ちょうどいい。待つというほどではなく、降りるのに適したあたりへ歩いていれば来るだろう。
 いつも乗る場所、最寄り駅に着いたらエスカレーターに近いところで降りられるところへ向かいながら、まるで夢を見ていたのではないか、と噛みしめた。
 放課後、地球堂へ行って一人で画材を見ていたときまではただの日常だったのに、そこで蘇芳先輩と偶然会ってからはまるで日常などではなくスペシャルな時間になってしまったのだ。
 でも夢などではない。口の中にはさっきの甘くておいしかったさつまいもの味が残っているし、なにより、ほんわりあたたかくなった胸がはっきりとさっきの出来事の素晴らしさを示していた。
 おまけに、また出掛けたい、なんて誘ってもらえて。
 偶然だったのかもしれないけれど、きっと偶然は現実へといつのまにか姿を変えていたのだ。
 誘ってもらったし、勇気を出してお誘いしてみても、いいのかなぁ。
 思ってみて恥ずかしくなったけれど、先輩に言ってもらったのだ。一緒にいるのが楽しかった、と。
 だからきっと迷惑ということはない。それなら少しの勇気を出して、また素敵な時間を過ごせるように動いてみてもいいのだろう。
 そこへアナウンスが入った。間もなく電車が到着します、という機械的な声。
 すぐに電車がきた。それに乗りこめば浅葱を家のある駅まで運んでいってくれる。そう遠いわけではないからドアの前に立って外を眺めた。外はすっかり暗くなって街の明かりが綺麗に見えた。
 これから寒くなっていくのだ。街の明かりはなんだか秋冬のほうが魅力的に見える、と浅葱は思う。
 ああいうものを蘇芳先輩と見られたら。ふと思ってしまって、またちょっと顔が熱くなった。
 けれどこういう気持ちになれることはとても幸せなこと。
 明るくてきらきらしていて、胸をあったかくしてくれるような、明かりの黄色やオレンジ色は、ゆっくりと窓の外を流れていった。