かぁっと顔が熱くなるのを感じてしまって、浅葱は咄嗟にフラペチーノに視線を戻した。
そこで目に入った。カップに描いてあるものが。
ムーンバックスは店員がカップに絵を描いてくれることがある。コーヒー、トールサイズ、とか注文をメモするのだけど、それのおまけに描いてくれる、という具合だ。
今日のそれは。
『LOVE』という文字。流れるような線で描かれていた。しかもそれが同じ線のハートでくるりと囲まれている。
くらっと意識が揺れた。
これは。
店員さんが。
……『LOVE』をつけたくなるような関係に見えたってこと?
思ってしまったけれど丸っきり的外れとも思えなかった。
ムーンバックスに入ってから驚きやらどきどきやらが多すぎて、もう心臓がもたない、と思ってしまう。
けれどただお茶を飲むために来たわけではないのであって。
「さ、じゃあ見るか。えーとな、ここ会員制だから俺のスマホで見るか」
言われてやっと本来の目的を思い出した。そしてそのことにまた恥ずかしくなった。目的も忘れてしまうほどこのデートのようなカフェ模様に夢中になってしまっていたことを。
「は、はい! ありがとうございます」
そうだ、先輩が紹介してくれたサイトで絵の具を見るのだった。やっと浅葱の意識は本来の目的に戻ってきた。
蘇芳先輩はスマホをカウンターの上に置いてこちらに向けてくれる。
私が見やすいように、だ。
浅葱は知ってしまう。
この置き方では蘇芳先輩は見づらいだろうに。自分は普段見慣れているから浅葱のことを気遣ってくれたのだろう。
その推測でいくと隣同士のこの席もその理由で選んでくれたのかもしれなかった。そういう気持ちがとても嬉しい。
それに、そういうところが好き。
思ってしまってまた頭の中が沸騰しそうになったけれど我慢する。先輩が折角見せてくれているのだ。こんな場合では。
「さっきの青が、これだよな。使ってる顔料が割と高価だから、絵の具になっても高めの値段らしいんだけど……」
いくつかページを開きながら解説してくれる。浅葱が知らないことばかりだった。絵の具の種類は知っていても、どうして高価なのかとか、材料の顔料がなにかで……とか。そういうことは詳しくなかった。
けれどそういう知識はあって困ることはない、と思った。むしろ自分にとって身近なものなのだからよく知ってみたい。そうも思った。
「で。登録すると会員価格で買える」
「……そうなんですね」
一通りの説明のあと、浅葱はほぅ、とため息をついてしまった。
絵がうまいだけではない。技術が高いだけではない。
画材、つまり絵を描くことに関連した知識も多かったのだ。蘇芳先輩は。
また尊敬する部分が増えてしまった、ということに感嘆してしまったのである。
自分もこんなふうになりたい。浅葱は噛みしめた。
今すぐには無理かもしれないけれど、たくさん絵を描いて勉強もして……三年生になる頃には今、隣にいる蘇芳先輩のような立派な先輩になりたい。
そこで自分が『先輩』という立場になるということはもう同じ学校には蘇芳先輩はいないのだということがちらっと頭に思い浮かんで、ちょっとだけ胸が痛んだけれど今は関係ない。頭の隅に追いやった。
そこで目に入った。カップに描いてあるものが。
ムーンバックスは店員がカップに絵を描いてくれることがある。コーヒー、トールサイズ、とか注文をメモするのだけど、それのおまけに描いてくれる、という具合だ。
今日のそれは。
『LOVE』という文字。流れるような線で描かれていた。しかもそれが同じ線のハートでくるりと囲まれている。
くらっと意識が揺れた。
これは。
店員さんが。
……『LOVE』をつけたくなるような関係に見えたってこと?
思ってしまったけれど丸っきり的外れとも思えなかった。
ムーンバックスに入ってから驚きやらどきどきやらが多すぎて、もう心臓がもたない、と思ってしまう。
けれどただお茶を飲むために来たわけではないのであって。
「さ、じゃあ見るか。えーとな、ここ会員制だから俺のスマホで見るか」
言われてやっと本来の目的を思い出した。そしてそのことにまた恥ずかしくなった。目的も忘れてしまうほどこのデートのようなカフェ模様に夢中になってしまっていたことを。
「は、はい! ありがとうございます」
そうだ、先輩が紹介してくれたサイトで絵の具を見るのだった。やっと浅葱の意識は本来の目的に戻ってきた。
蘇芳先輩はスマホをカウンターの上に置いてこちらに向けてくれる。
私が見やすいように、だ。
浅葱は知ってしまう。
この置き方では蘇芳先輩は見づらいだろうに。自分は普段見慣れているから浅葱のことを気遣ってくれたのだろう。
その推測でいくと隣同士のこの席もその理由で選んでくれたのかもしれなかった。そういう気持ちがとても嬉しい。
それに、そういうところが好き。
思ってしまってまた頭の中が沸騰しそうになったけれど我慢する。先輩が折角見せてくれているのだ。こんな場合では。
「さっきの青が、これだよな。使ってる顔料が割と高価だから、絵の具になっても高めの値段らしいんだけど……」
いくつかページを開きながら解説してくれる。浅葱が知らないことばかりだった。絵の具の種類は知っていても、どうして高価なのかとか、材料の顔料がなにかで……とか。そういうことは詳しくなかった。
けれどそういう知識はあって困ることはない、と思った。むしろ自分にとって身近なものなのだからよく知ってみたい。そうも思った。
「で。登録すると会員価格で買える」
「……そうなんですね」
一通りの説明のあと、浅葱はほぅ、とため息をついてしまった。
絵がうまいだけではない。技術が高いだけではない。
画材、つまり絵を描くことに関連した知識も多かったのだ。蘇芳先輩は。
また尊敬する部分が増えてしまった、ということに感嘆してしまったのである。
自分もこんなふうになりたい。浅葱は噛みしめた。
今すぐには無理かもしれないけれど、たくさん絵を描いて勉強もして……三年生になる頃には今、隣にいる蘇芳先輩のような立派な先輩になりたい。
そこで自分が『先輩』という立場になるということはもう同じ学校には蘇芳先輩はいないのだということがちらっと頭に思い浮かんで、ちょっとだけ胸が痛んだけれど今は関係ない。頭の隅に追いやった。