二階には筆やハケなどが置いてある。さっき筆を見たのでそれより適したものがあるかと見ていく。
 二階まででもう三十分近くが経ちそうになってしまい、浅葱ははっとした。いくら時間があるといってもあまり遅くなれば叱られてしまう。
 いけないいけない、ちゃっちゃと見ないと。
 思って三階へ。
 これが今日のメイン。つまり絵の具のコーナーだ。
 ポスターカラーやアクリルガッシュ、油絵の具など、絵にとって重要な材料であり、そして消耗品であるものを見たいと思ったのだ。
 それは勿論青い絵の具をたくさん使うので、バリエーション豊かに揃えたかったのだ。
 なので油絵の具のコーナーへ行った。あの青い絵は油絵で描いてみようかと思っていたのだ。
 油絵を描いたことはもう何度もあるので基本的な色は揃っている。けれど今は手持ちが心もとなかった。なので青い絵の具はたくさん使うこともあって、チェックして良さそうなものがあったら買いたいと思っていた。
 油絵の具にも種類がある。ひとつのメーカーだけではないのだ。なにしろ専門店。微妙に色合いの違うものがメーカー別に並んでいる。
 気に入りのメーカーから見ていった。描き心地や色のトーンが好きなもの。
 青を中心に、それから混ぜるのに使う白や黒、緑や黄色……。
 あ、これいい。新色だって。使ってみたいな。
 でもこっちはやっぱり定番だからあったほうがいいし……。
 あれこれ手に取りながら悩んでしまう。
 なにしろお小遣いには限りがある。欲しいものを全部は買えない。
 どれを優先して買おうか悩んでいたときだった。
「あれ、六谷じゃないか?」
 不意に知っている声がした。それは知っている、どころではなかったので浅葱はどきっとしてしまう。
 だってそれは。
「せ、先輩!?」
 ばっと振り向くと、声の通り蘇芳先輩が立っていた。学校帰りだろうからいつも通りの制服姿。
 どうして蘇芳先輩がここに。いや、美術部部長なのだからいて不思議なんてことはないけれど、まさかかち合うなんて。
 どきどき心臓が高鳴ってくる。
 部活でも学校でもなくこんなお店で、街中で偶然会うなんて。
 なんて偶然。でも……嬉しい。
 じわじわ胸が熱くなってくる。