仰天した。
 一緒にいられる時間が増えるどころではない。
 それは今まで、美術部で一緒に過ごしていた時間と似たように同じ場所で絵を描いて頑張ることができるという意味ではないか。
「えっ……な、なんで先に言ってくれないんですか!?」
 浅葱の声はひっくり返った。そういうことなら先に言ってくれても良かっただろうに。
 壱樹先輩はまた笑った。今度のものはたまにあるような浅葱をちょっとからかうような笑い方。
「悪い悪い。でも俺がいるから来い、なんて言ったら強制みたいになるだろうと思ったからさ」
「そ、そんなこと……」
 壱樹先輩が言ったことはその通りだった。
 浅葱の気持ちで決めてほしい、と思ってくれたのだろう。
 純粋に絵を頑張りたい、という気持ちで決めてほしい、と。
「壱樹先輩がいる、いないに関係なく、行きたいって思ったに決まってます」
 嬉しかったけれどからかわれたのは不本意で。浅葱の言葉はちょっと拗ねたようになった。
 壱樹先輩はまたそれを見て「悪い悪い」と笑うのだった。手を伸ばしてぽんぽんと浅葱の頭を撫でる。
 ごまかすようなこと、と思ったけれど嬉しくないわけがない。
 浅葱は機嫌を直すことにした。
 でもちょっとだけ気になったことが生まれた。
 言うかためらった。
 言っていいものか。
 しかしいい機会かもしれない。
 浅葱はごくっと唾を飲んだ。思い切って口に出す。
「あの、……曽我先輩、という方もいらっしゃるんですか」
「……え? どうしてだ」
 浅葱の言葉は唐突だったかもしれない。今度は壱樹先輩がきょとんとした。
「いえ、美大にいらっしゃるって聞いたので、多真美やビケンにもいらっしゃるのかな、と……」