ふと風が吹いた。コートの上から浅葱の体を撫でていく。
 それは二月の冷え込む日だったというのにどこかあたたかかった。
 まるでうまくいく、というのが本当のことだと示してくれているように。
「浅葱。ずっと言いたかったことがあるんだが」
 ひとまず試験で疲れたであろう壱樹先輩に休憩してもらおうと、カフェへ向かうことにした。
 コーヒーでも飲んでちょっと甘いものでも食べよう。そう言い合っていたところだ。
 そのとき不意に壱樹先輩の声色が変わった。
「はい、なんですか?」
 浅葱は何気なく壱樹先輩を見た。
 そして知る。これはなにか大切なことだ。
 壱樹先輩が足を止める。
「浅葱も来年、多真美に来る気はないか」

……来年?

 浅葱はきょとんとしてしまう。
 来年たまび、多真美術大学に入学するのは壱樹先輩だろう。
 自分は当たり前のように重色高校の二年生になるわけで。
 来年、という意味がちっともわからない。
「どういうことですか?」
 そのまま聞き返してしまった。
 壱樹先輩は優しい顔をしていた。その目の奥はちょっと固かったけれど。理由がもっとわからなくなってしまう。
「ビケン、ってものが大学付属であるんだ」