自分のことのように、そわそわ待っていた浅葱。受験会場の大学……多真美術大学の前のカフェで午前中から過ごしていたのだけど、試験の終わる時間に校門前へ行った。そこで先輩が出てくるのを待っていたというわけだ。
 知らないうちに自分の手をぎゅっと握っていた。壱樹先輩にもらった赤い手袋をしっかりして、だ。
 だから浅葱の手はちっとも冷えるなんてことはなかった。ふわふわ優しいあたたかさに包まれている。
 奥の校舎から壱樹先輩が出てくるところを見たときは、心臓が飛び出しそうになった。
 先輩ならきっといい結果を出してくると信じていたけれど直面するのは話が別だ。
 どきどき心臓が高鳴る。
 心配そうな顔をしてしまっていたのだろう。壱樹先輩は浅葱を安心させるように笑みを浮かべてくれた。満面の笑みを、だ。
 その表情はなによりはっきりと『納得のいく結果が出そうだ』と示していた。
 大好きな壱樹先輩のそんな表情を見れば安心しないわけがない。浅葱は心底ほっとした。