壱樹先輩は三月で卒業してしまう。
 けれどそれで縁が切れてしまうはずはない。
 たまには重色高校にも顔を出してくれるだろうし、浅葱はもっと特別な存在なのだ。「週に一回は会いたいもんだな」と言ってもらっていた。
 だから今よりかなり頻度は落ちるけれど、それなりに多く会えるよう約束している。
 デートのときに「部活のほうはどうだ?」なんて聞かれて、うまくいっていないなんて情けない返答をするわけにはいかないではないか。
 よって浅葱のリーダーとしての活動は気合が入っていた。
 二年生の先輩たちもそれを認めてくれて、金澤先輩などは「六谷はやる気に溢れてるなぁ。再来年度は俺が六谷を部長に任命するかもしれないな」なんて、冗談半分かもしれないけれど言ってくれたくらいである。
 そのときは「いえ、そんな、まだ私なんて全然……」と言ってしまったけれど、嬉しかった。
 二年生リーダーになれたときから浅葱には新しい目標ができたから。
 ……三年生になるとき。
 部長になりたい。
 壱樹先輩のような、先輩としても部長としても、立派な人間になりたい。
 そういう、具体的で、絶対に叶えたい目標だ。
 でも美術部なのだ。
 絵だって勿論うまくなりたい。
 進学するときは美大を受けて、合格して、大学生になりたい。
 やりたいことも叶えたいこともたくさんだった。
 それに向けてやることだって多すぎて、浅葱にはいくら時間があっても足りないように感じてしまう。
 まだ高校一年生ではあるけれど、あと二ヵ月ほどでそれもおしまい。そうしたら高校生活は残り二年間なのだ。
 その二年間でどれだけやりたいこと、できるようになりたいことを叶えられるか。
 浅葱はひとつでも多く達成させるつもりだった。
 そしてそういう姿勢は部活のひとたちは勿論、今はたまにしか美術室に顔を出さなくなってしまった壱樹先輩も認めてくれたのである。