「あー、だいぶ緊張したな」
 けれど壱樹先輩は浅葱の家から離れて、角を曲がって、しばらくしたところでそう言ったのだった。
 浅葱はちょっと驚いた。
 緊張した、のだという。
 でもすぐに、それはそうだよね、と納得してしまった。
 いきなり彼女の親に会うことになってしまったのだ。緊張しないはずがない。
 そこで動揺する様子を見せるどころか、堂々と挨拶してしまうのが壱樹先輩のすごいところなのだけど。
「ご、ごめんなさい。一人で出てくるつもりだったんですけど……」
「いや、いいさ」
 謝った浅葱にはひらひらと手が振られた。
「いい機会だったんじゃないか?」
 言われた言葉には、またぽっと顔が熱くなってしまう。
 初詣デートが終わって帰ってから。
 お母さんにあれやこれや聞かれてしまうのは、もう確定だったからである。