年末はデート、というわけにはいかなかった。壱樹先輩は折角纏まった時間があるのだ、受験勉強を頑張りたいだろうし、浅葱も家のことを手伝うように言われていたし。
 それでも冬休み。友達たちと一日遊びに行った。
 ショッピングモールに行って、年末セールで色々と服や雑貨を見て、ファミレスで長々とお喋りもした。
 その中で「蘇芳先輩、優しい?」「いいなぁ、カレシ持ちになっちゃうなんて。しかもあの蘇芳先輩」なんて話題になったのは当然だろう。
 浅葱は顔を赤くしてしまって、ジュースのストローを咥えながら壱樹先輩のことを話した。
 話せるのは嬉しかったけれど、どうしても恥ずかしい。ハグをしただのキスをしただの具体的なことは言えないし。いくら友達相手だといっても恥ずかしい。
 「浅葱、頑張ってたもんね。本当に幸せになってくれてよかったよ」とその中で言ってくれたのは綾だった。
 綾も普段は部活が忙しいのだけど年末はやはり休み。久しぶりに思いっきり遊べるよ、と今日も一番はしゃいでいた。
「そうだね。部活では私もだいぶお世話になっちゃったし」
 萌江も頷いてくれる。目の前のケーキをつつきながら。
 ほかの子たちも「いいなぁ」と言えども二人が言ってくれたように同級生でいつも学校で浅葱と過ごしてくれている子たちなのだ。浅葱が頑張っていたことは親友である綾や萌江ほどでなくても、それなりに知っていてくれている。
 いい友達がいてくれてよかった、と浅葱は噛みしめる。
 綾や萌江はたくさん助けてくれたけれど、友達は一人ではないしその誰もが等しく、大切な存在だ。
 ちょっとからかわれつつも祝福してもらえたことに嬉しくなる。
 それに心の中があったかかった。
 自分は一人ではない。
 壱樹先輩は彼氏だけど、友達だって違う意味で傍にいてくれる大切なひと。
 優しいひとたちに囲まれている自分は幸せなのだ。
 年末のこの友人たちとのお出掛けは、浅葱にとってとても楽しめ、また自分の幸せを噛みしめさせてくれるような素敵な一日だった。