かっと顔が熱くなる。どくんっと心臓も跳ねた。喉元まで跳ねたのではないかと思うほどだった。どくどくっとそのまま速い鼓動になる。
けれど。
……なんだか自然だった。
こうなることは当たり前のような、ずっと前から決まっていたような。そんな気持ちが浅葱の心の中に溢れた。
だから。
勇気を出してそっと目を閉じた。どきんどきんと胸の鼓動が痛いほどだけど何故か確かな心地良さがあって。
閉じた目の前。あたたかな感覚がやってきた。顔を近付けられた、と感じた次には、ふわっとくちびるに優しい感触が触れていた。
ほんの、一瞬。
触れるだけの軽いものだった。
でもそれはまるであたたかな春風がくちびるを撫でていったような。
とてもとてもあたたかく、優しい感触だった。
あたたかな感触は数秒留まったけれど、やがてそっと離れていった。
そろそろと目を開けると、まだ数十センチの距離にいた蘇芳先輩と正面から目が合ってしまった。
蘇芳先輩もどこか緊張したような目をしている。
でもその瞳はさっきと全く同じ。
浅葱が愛しいとはっきり表してくれていて。
くすぐったさが浅葱の胸を襲った。
今度は違う意味で、ばくばくと心臓の鼓動が速くなる。
……キス、しちゃった。
じんわりと事実が迫ってきて、浅葱の頬をもっと熱くした。
流石にちょっと視線を逸らしてしまった。顔が真っ赤だろうから。
でも浅葱が「嫌だと思った」とか、蘇芳先輩はそんなこと、思わなかっただろう。
そんな気持ちまでくちびるを通して伝わったようだった。
「……帰ろうか」
言われて、浅葱はそろっと顔を上げた。まだ顔は赤いだろうけれど。
でも蘇芳先輩の頬だって、ほんのり赤かったのだ。
それで浅葱は知る。
多分、蘇芳先輩も初めて、だったのだ。
そう言われたわけでもないのに察せてしまう。不思議なことだ。
「……はい」
浅葱はちょっと努力してだけど笑みを浮かべた。
もう一度、蘇芳先輩に手を取られて駅の中へ向かった。電車に乗るためだ。
蘇芳先輩は浅葱を家の近くまで送っていってくれるらしい。当たり前のように同じホームへ二人で上がった。
駅に入ってから、電車に乗っても、二人ともなにも喋らなかった。
言葉は必要ない、という状況を、浅葱は初めて体験した。
あたたかな空気が二人の周りを包んでいるようだった。
優しい気持ちはあの一瞬の春風だったのだろう。
手を握って乗る電車。窓の外は真っ暗だったけれど、その中にも街の明かりが見えた。
素敵な一日の終わりだった。
浅葱は蘇芳先輩の手のぬくもりを感じながら噛みしめて、心から思った。
このひとが恋人で本当に幸せだ、と。
けれど。
……なんだか自然だった。
こうなることは当たり前のような、ずっと前から決まっていたような。そんな気持ちが浅葱の心の中に溢れた。
だから。
勇気を出してそっと目を閉じた。どきんどきんと胸の鼓動が痛いほどだけど何故か確かな心地良さがあって。
閉じた目の前。あたたかな感覚がやってきた。顔を近付けられた、と感じた次には、ふわっとくちびるに優しい感触が触れていた。
ほんの、一瞬。
触れるだけの軽いものだった。
でもそれはまるであたたかな春風がくちびるを撫でていったような。
とてもとてもあたたかく、優しい感触だった。
あたたかな感触は数秒留まったけれど、やがてそっと離れていった。
そろそろと目を開けると、まだ数十センチの距離にいた蘇芳先輩と正面から目が合ってしまった。
蘇芳先輩もどこか緊張したような目をしている。
でもその瞳はさっきと全く同じ。
浅葱が愛しいとはっきり表してくれていて。
くすぐったさが浅葱の胸を襲った。
今度は違う意味で、ばくばくと心臓の鼓動が速くなる。
……キス、しちゃった。
じんわりと事実が迫ってきて、浅葱の頬をもっと熱くした。
流石にちょっと視線を逸らしてしまった。顔が真っ赤だろうから。
でも浅葱が「嫌だと思った」とか、蘇芳先輩はそんなこと、思わなかっただろう。
そんな気持ちまでくちびるを通して伝わったようだった。
「……帰ろうか」
言われて、浅葱はそろっと顔を上げた。まだ顔は赤いだろうけれど。
でも蘇芳先輩の頬だって、ほんのり赤かったのだ。
それで浅葱は知る。
多分、蘇芳先輩も初めて、だったのだ。
そう言われたわけでもないのに察せてしまう。不思議なことだ。
「……はい」
浅葱はちょっと努力してだけど笑みを浮かべた。
もう一度、蘇芳先輩に手を取られて駅の中へ向かった。電車に乗るためだ。
蘇芳先輩は浅葱を家の近くまで送っていってくれるらしい。当たり前のように同じホームへ二人で上がった。
駅に入ってから、電車に乗っても、二人ともなにも喋らなかった。
言葉は必要ない、という状況を、浅葱は初めて体験した。
あたたかな空気が二人の周りを包んでいるようだった。
優しい気持ちはあの一瞬の春風だったのだろう。
手を握って乗る電車。窓の外は真っ暗だったけれど、その中にも街の明かりが見えた。
素敵な一日の終わりだった。
浅葱は蘇芳先輩の手のぬくもりを感じながら噛みしめて、心から思った。
このひとが恋人で本当に幸せだ、と。