どくんっと心臓が跳ねる。これほど距離が近付いたことは初めてだった。
 浅葱の頭の中がくらくら揺れた。
 しっかりとした胸と腕の感触。伝わってくる体温。
 おまけに香水だろうか、ほんのり良い香りもする。
 すべてが浅葱を酔わせるようだった。
 ポーズをつけることも笑うこともできるはずがない。そのままぱしゃぱしゃと何枚も撮られてしまった。

『おしまーい! お疲れ様でしたっ! 次は落書きコーナーに行ってね!』

 機械が終わりを告げて、蘇芳先輩にそろっと離された。
 急に寂しくなってしまう。あんなにびっくりして緊張したというのに。
「……嫌だったか?」
 蘇芳先輩に聞かれて、浅葱ははっとした。
 自分がこんな反応だったから、嫌だったのかと誤解されてしまったのかもしれない。そんなことは。
「いっいえ! そんなはずは!」
 慌てて言ったけれど蘇芳先輩はちょっと不安げな顔をしている。
 誤解されたくないのに。嫌なんてはずがないのに。
 むしろ。
 ……嬉しかった、のに。
 どきん、どきん、と心臓が高鳴る。ごくんと唾を飲んで、でも思い切って浅葱は口を開いた。
「その、……どきどきして、しま、って……」
 こんなこと恥ずかしすぎる。でも誤解されるよりずっといい。
 そしてそれは正解だったようなのだ。
 蘇芳先輩は笑みを浮かべた。ほっとしたような笑みだった。
 おまけに笑みはまた変わっていく。こういう笑顔はなんというのか。
「そっか。やっぱり六谷はかわいいな」
 言われた言葉にまた頬が熱くなってしまったけれど、浅葱は思い知る。
 こういう笑顔は『愛しさ』だ。