ルイは、ダルマストーブの火に照らされてか、顔を真っ赤に火照らせていた。

揺らめく ほの暗い明かりでは、確信はもてないが、シオンには ルイの目から ツッと 水が 落ちたようにも 感じた。

そして、いつにも無い 可細さで、

「やっぱ、、ハ ゲ、てんじゃ、」

と 言葉を漏らした。

シオンは、そんなルイを

「はーげ、はーげ。」

と、囃して 微笑みかける。

「もう、、つるっ、つるに 剥げてるんだろ?ルーイ。」

ルイの頭を、ワシャワシャ粗っぽく撫でて、レンが 口を弓なりにして笑顔になる。
わざと、ルイの髪をぐちゃぐちゃにして、レンは 手を離した。

「ごらっ!くそっ。オレぁ、、ベレー帽なんざ 被って、隠さねぇし。」

と、ルイは 乱された髪を 自分の手で掬いで 直して、レンを見た。

その、ルイをレンは斜に見ると、

「ルイは、親父似だろ?、俺の方が お袋の方を 継いでる。きっと、ルイは、俺ほどじゃない。安心していいよ。」

シレッと 牽制するかに、言う。

ルイは、また毛布を纏って、ふてて、寝転がった。
シオンは、レンとルイを 見比べて、肩を透かす。

「お祖父様が 、婚約通りに生きる事もあったよね?」

ふと、シオンが そう口にする。

「祖父ーさまが、そう思や、力尽くで、出来たろ!」

それには、急かさず ルイが 寝姿のまま、応える。



「なら、今、俺達は、誰も 此処にいないな。」

レンの冷静な言葉が、三人の間に横たわった。

そして、レンは 続ける。

「思いは別に、どうしても、外からの、婚姻を選んだと、 思うよ。」

シオンも、そうだと思う。
だから、お婆様は、大お婆様に冷たくされた。
お祖父様は、一族の慣習を 敢えて壊したのだと それで分かる。
それだけの
考えがあったのだろう。

「現に、お袋達の男兄弟は 育たなかった。お袋だって、男兄弟しかなくて 、全く一族の縁が無い家から、親父、探してる。」

レンは、重ねて語った。

「それでも、俺やルイは お袋方の気質が、出てるって、言われて来た。」

シオンが 繋ぐ。

「そうだね、うちも、全員女だし、親族で の婚姻は 限界だったかなー。時代も変わったし、ね」

ルイは 何げなく、電話を触りながら、自棄気味に言った。

「それで 自分ん事、抑えれんのか?それって何のためだ?だってよ、家は家で 婚約させてんだろ? Win-Winだろ。」

シオンは 反応して、寝返りをうったルイに 言い放つ。

「一族とお祖父様が、Win-Winでも、当の婚約者は違う!」

「いや、そりゃ、それこそ それはダメな関係だろーが。」

ルイが、シオンに上体を浮かして言った言葉に、シオンは思わず

「ルイ、それ、言う?!」

批難するように 声にした。
弾みに、掛けた毛布が 勢い落ちた。

ルイは、気不味そうに、シオンに背中を見せる。




「本当に、パンドラだね。」

ダルマストーブを 見つめて、手を 立てた膝に組んだ レンが 、シオンとルイの やり取りを止めるように、

「お祖父様の金庫。お祖父様は、幾つも意味を持たせて、凍めたんじゃないかな?」

と、投げ掛けた。

そんな レンに、何言ってるんだと言わんばかりに、下から ルイが 言い放つ。

「パンドラって、災いってかよ?」

そんな、ルイをレンは 上から 見据えた後、シオンに 視線を合わせた。

「力や欲も、因習も時代も。」
「後に続く様に一旦凍めた。そして、凍めた金庫を 残したんじゃないかな。」

そして、落ちた毛布を 手にして、シオンの体を包みこむ。

レンから 毛布を 掛けられるままにしていた、シオンは 眉を 不快そうに、寄せあげて、

「それは、、あたしに、なの?」

と、苦し気に 吐露した。
すると、レンは、シオンの頭をいつもの様に 撫でる。

「違うよ、さっき、言ったと思うけど、きっと『お祖父様自身への 戒め』だよ。シオンに 要求とか、何か迫ったり 、してない。」

「あたし、」

「それに、俺達の感情は、ちゃんと、自分の感情だ。つくられたモノじゃないよ。」

「例え、時代を動かすような 人達が 作った、血を継承する、仕掛け、されてたとしても、」

「絶対、俺達の 感情は、俺達のものだ。」

レンは、シオンの頭を撫でていた手を、シオンの頬に サラリと 移動させた。

「ねぇ、シオン、さっき、墓の話してたよね。」

急に、話を意外なところへされて、シオンは 躊躇ぎながら、

「もう、お祖父様のとこは、継ぐ墓守りがないし、」
「あたし、きっと他の家のに入りそうにないから、」

と、言葉にした。

シオンの頬に 添えていた レンの手が、シオンの 首筋まで ゆっくり這って、

「シオン、」

動脈のあたりで ユルリっと 撫でられる。

その指が、酷く 愛おしそうに
止まった。

「シオンが入る、墓。俺も 最後、入っていいかな?」

「え、」

まるで、
脈を測られるように、
首肌を抑えられると、

鼓動を

見透かされてるように、
シオンは、
感じる。

「俺、きっと、この先、孤独死だよ。」

もしも、否と言えば、
そのまま首を
どうにかされそうだとも、
シオンは、

感じていた。


「最後、シオンが入る、墓に、俺を入れておいてよ。」


レンの指から、
シオンと同じ
シャンプーの薫りが、
く揺る。
胸に吸い込むと
体中に染み
渡って


「いいなあ。それ、すごく 幸せだー、」

と、口から 溢れた。

レンは、
シオンの顔から
首をジッと
眺めて、

指を 離した。

と、シオンの足首に、縋る感触がして、
シャンプーの薫りが昇る。


「オレも、連れろ」


シオンが立てた足先に、
寝転がる ルイが
頭を
すり寄せて
いた。

そうしていたルイに

シオンは、

「じゃあ、三人でね。」

と、揃って、安心したように

微笑を口にした。


ルイが シオンの足首を
祈るように 持ったまま、

「なあ、パンドラの底に残ったモンて何だと、思うよ?」

レンとシオンに、訊ねる。

なに電話を、触ってたかと思えばだと、
シオンは、待つ。


「『未来の全てがわかる災い』だとよ。」



「・・・そこって、『希望』って、いうとこだよ。」

シオンが 答え合わせた。

すると、

この旅から、また燻り
あの夏から 追われる様に
子宮につながる場所に
感じた

『臍の奥の 疼き』が

昇化されたと、
シオンは 解った。

外の国道から
夜が明けるのが、

聞こえる。

『寝ずの番』が 終わる。