滋賀の叔母には 二人の息子がいる。

長男のレイは、シオンより3つ年上、母親に似た顔立ちは 切れ長の目をした優等生タイプ。とにかく、子どもの頃から 頭が良くて、シオンは 毎年 夏休みの宿題や 感想文を 手伝ってもらった。

次男のルイは、シオンの2つ年上。レイとは年子の弟。彼は 南国出身の父親に似たであろう 顔立ちで、長い睫毛に大きい目の大将タイプ。俺さま系だけど、スポーツも遊びも上手だから、男の子のリーダーだったと思うし、
二人とも、子どもながらに モテたとシオンは少女ながらに推測していた。

というのも、夏休みに 連れて行ってくれた 近所のお祭り。そこでは、やたらクラスの女の子達にも 男の子達にも 声をかけられていたから。そう今もあの時の女の子達の顔を、シオンはしっかり覚えている。あれは、憧れの眼差し。


まあ、夏休みという学校ではない期間にしか 二人には会えていないから どれだけの人気かなんて わからない。でも、タイプは違えど 確実に美形兄弟だったのだ。

で、今 、目の前にいる この辺りに は まずいそうにないイケメンは、覚えのある 切れ長の目をしているわけで。しかも、これまたムダな色気もその目にはしっかり育っていると、シオンには見てとれた。

「あの、もしかして、レイ 、ちゃん? わたし シオン 、です…が」

声をかけながら 歩るくシオンに、ベージュのトレンチが 雪に溶けたようなオーラが目に刺さる。
氷の貴公子という形容詞が似合うクールな微笑みで そのイケメンはシオンに

「シオンちゃんだろ? いい女になったね。すぐ 解った。」
と、気障な挨拶をよこした。

思わず シオンの両目が見開く。
軽くフリーズしたのだろう。

続けて
当たり前のように 彼は、流れる動作で 助手席のドアを開き 声をかけ、シオンを中に促す。
そして ドアを 外から静かに閉めてくれた。

この一連の様は、白銀の世界で 全て無音映画のようだ。
助手席に座ったシオンは 思わず 額に片手を当てて ため息を逃さずにはいられない。

「レンちゃんって、大人になると 王子さま台詞を 平気でいうんだね。」

全く悪びれる感のない 彼は エンジンを駆けながら、
「この年で ちゃん呼びは 無いから、レンって呼んでいいよ。」
と その整った顔だけ シオンに向けた。

「---じゃ、レン。」

「なら、シオンでいいかな。」

笑顔のレンに
シオンは、yesというかわりに おもいっきり 口をつぐんで返した。