もう、弔問客は来ないと、レンはシオンに言っていたが、

記帳の団体欄に 女性は、『町会』と書き込んでいた。

ということは、叔母の第一発見者が このお年寄りかもしれない。そう、手で 焼香を示しながら、シオンは考えた。

すると、
「あのう、私も お経を上げさしてもらいますよって。ええですかねぇ。」
と、思いもしない事を 聞かれた。

「え、、、よければ 今日、お焼香もお願いします。。明日は直接 焼き場になりまして。」

一瞬かんがえたシオンは、ある事を思い出して、 言葉をかえした。

「そうでしたかぁ。」



そう お年寄りの女性は 穏やかにシオンに言いながら、手の横を するりと 抜けて、棺の近くへ歩く。

線香と、青い木の薫りが その女性からした。何かがシオンに沸き上がる。

「そうだ、」



『シオンちゃん、あんたの 神さんは、何処に おる?』




シオンの頭に、記憶に沈んでいた 叔母の声が ザーッと 浮上してきた。

『ここらへんの、お葬式は ご近所のみんなで お経を読んで 送ってあげるんよ。あら、お経が分からへん? なら、 お焼香をしたげたらいいわ。でも、読めるようにしとくにこしたことないわ。ほら、みんなと 送ってあげたいでしょう?』


いつも、優しく シオンに 教えるように シキタリを 話す 叔母の声。

カミナリに撃たれるって、こんな感じなのか?

ああ。
追い討ちを かけるように、読経の声が 先ほどの女性によって、僧侶との二重奏になった。

すると、レンと、ルイの背中が 動く空気がした。
そして、シオンの心は、まだ金縛りにあっている。


二人は 今 どう 思っている?そう、考えたシオンの
鼻が、

新たに重なった
焼香の薫りを 捕らえた。
レンが 指で抹香を 炭に 落としたのだろう。


また、 ルイによって、香りが膨らむ。

そして、三度 抹香が細い煙を上げる。

動かない シオンに、やはり司会をしていた女性スタッフが

「お焼香、お願いします。』
と、声をかけに来た。
シオンが 受付で、順番に気が付かないと思ったのだろう。
けど。

『今まで 』何度も葬儀に参列をした、焼香も してきた。

なのに、『今は 』どうして
焼香をすることが、こんなに 自分にとって背徳的に 思えるのか。

シオンは 指に、香りの粒を摘まんで ふわっと心を込めて 火にくべた。


あたし達 三人は、 経を 読む事が 出来ない


『チーーィン。』

鈴棒を ゆっくり置いた 若い僧侶が、説法を始めた。



司会の女性が、弔電を読む。



シオンの母親の妹、叔母3姉妹の末妹からだった。

再び読経が行われ。

そして、レンが 挨拶をして、頭を下げた。

お年寄りの女性は タクシーで帰った行った。


こうして、

叔母の 通夜式は 終わった。