シオンは、レンに 両の肩を 手で支えられながら、白い洋館の玄関を出る。

車の中なら エアコンが効いているから、雪でも寒さを感じないが、洋館の中を シオンのスプリングコートだけでいるのは、ほんの少し間とはいえ 寒さが堪えた。

それは 単なる、 火の気のなさ だけではないかもしれない。
ガランドウの家は、それだけで 心を冷え々とさせるんだな。
そう シオンが思うと 自然と 体が 震えてしまう。
そんな シオンを、レンは 肩を包むように、外へ出してくれた。

直ちに それでいて、流れる様に レンは、車のドアを 開いてくれる。
ふいに、レンは後部座席にあったレンのジャケットを シオンの膝にのせた。

「あっちの家に着いたら、羽織ったほうがいいよ。冷えるから。」

そう言って ドアを閉めると、運転席にレンは乗り込む。

「向こうで、暖房をつけても、すぐには 温まらないからね。」

運転席から レンは、 置かれたジャケットの上で 手を擦るシオンの、手を 片手で握った。

「この新しい家って、前の家から近いの?」

シオンは、レンが重ねた手に、今度は自分の手を上から重ねる。
子供の頃、氷るほど冷たい ラムネ瓶で、痺れるほどに 冷えた手を、 こんな風に 互いに重ねて暖めた。

レンは、子供の頃から、手が冷たいし、ルイは反対に、温かい。

重ね合わせた、シオンの手を フッと 軽く握って、レンは手を抜く。

「車で、すぐだよ。」
そう知らせて、レンは車を動かした。




少し走ると、見慣れた 生け垣が見える。
シオンも よく覚えている 純和風の庭の広い 建物。

かつて、シオンが夏休みの度に 訪れた 叔母の家であり、レンとルイの生家だ。懐かしい。
記憶の和風建物は、いつも夏の光と一緒だったから、雪を被る姿は どうしても シオンには、違和感を感じる。

雪に埋もれた 車寄せに、 車を止めたレイは、ダッシュボードから 箱を出して中身を開けた。
マスク?とシオンが 不思議に思っていると、レンは

「こっち向いてね」

と言いながら、出したマスクのゴムを シオンの耳に掛ける。

「あのね、シオン。さっきも言ったけど、お袋、こっちの家で 倒れてた。だから。しといた方が、いい。」

そんな、レンの表情は 硬い。
シオンは、運転席の レンの顔を ジッと 見つめて、ため息と一緒に

「軽はずみだった。」

と後悔の色を声に浮かべて、レンが掛けてくれた 白いマスクを 整えた。