ルイが、黒礼服のネクタイを 無造作に ゆるめる。ふと、女性スタッフに会釈をした。
そのまま「先ほどの」と 話かけられる。
そんなルイを レンは まだ見つめたままで
「そろそろ、俺も着替えるよ。」とだけ、シオンに答えた。

それ以外は 10年以上ぶりの再会にも関わらず 特別な言葉は、 レンとルイの間には なかった。

そんな 三人に関係なく、祭壇は 沢山の花が 飾られていく。
大きめの リビング 調な式場は、壁に掛けた写真を中心に、棺が部屋の真ん中に移動をし、棺を花が囲むスタイルのようだ。
けっこう、バタバタの現場だが、その装飾は 本当に、白雪姫のラストシーンみたいだなーと、シオンは 眺めている。と、

「おまえ、その格好、着替えるんだろ、着替え、行けば。」

藪から棒に ルイに言われて、シオンは はっとした。ついでに、今 シオンのお腹が 小さく鳴ったのも 感じる。まあ、周りに聞こえない程度。
躊躇する、シオンに レンが 肩に手を置いて
「奥の和室に衝立あるから、着替えとかに使って?」
と 促してくれるが、

自分の服の事も、昼食も 提案を忘れてたのを思い出して、シオンは 二人に 伝えた。

「ごめんだけど、あたし お腹すいたから、コンビニ行ってもいいかな? 何か 買ってくる。あと、服は 悪いんだけど、これでお通夜、出させてくれない?」

肩越しに レンが 見下ろして
「参ったな、昼、忘れてた。何かとるか。」
そう シオンにいいながら、
「服、気にしなくていいよ。」と笑う。

そんな 二人のやりとりに、ルイは 両手をつっこんだままのスタイルで
「おまえだけじゃない、俺も 飯 買いに行く。コンビニ、ちょっと行ったとこだ。」
と 畳み掛けた。

レイが、肩眉をちょっと上げたが、すぐに 自分のブラックデニムの後ろから出した 財布を シオンに渡して、
「悪いけど、なんでもいいから
俺のも 買って来てくれるか? まだここを外せない みたいなんだ。」
と、苦笑いする。

もう、ルイは自動ドアを出て、傘をさしているのが ガラスから見える。
慌てて、財布を手に シオンも自動ドアを出る。

雪は まだまだ 降ってきている。
スプリングコートでは 心もとないが仕方ない。
シオンは、式場のビニール傘を ドア外の傘立てに見つけて、指そうとした。反動で 濡れ凍った玄関に 足を取られそうになる。どうも 外はシオンのパンプスで いつものような歩ける様子で なさそうである。ついシオンは声に出した。

「アイゼンいるわー。」

その時、シオンが持つビニール傘が 手から取り上げられた。
「しゃーないから、腕もて。」

ルイは、自分が差していた傘を閉じて、傘立てに投げ込み、シオンから取り上げた傘を 腕と一緒に差し出した。

「はい、はい。」
とシオンが 傘ごと 出された腕に しがみついた時。見ると ガラスの向こうで シオンに 手をヒラヒラさせる レンが見えた。
雪が また少し多く降ってくる。

コンビニは、ルイの言ったとおり、見える場所にある。
けれど、シオンのパンプスは、たまに ツルっと滑ってしまい、ルイの腕がなくては 進めなくて なんとも遅い。
1つの傘を 二人で差して行くから なおさらだ。

ルイの腕を掴みながら、
「ルイ、 腕、抜群の安定感に 育ってるねー」とシオンが笑うと ルイがシオンに しゃべりかける。

「おまえさ、服どうした。」

国道の側溝にも 雪があるが、ところどころ 水の流れがあり、ピンクの花弁が 流れるているのを シオンは見つけた。

「あたしだって、ちゃんと喪服あったら着たいよ。しょーがないんだって、だいたい、旅行中なんだから。たまたま 信楽に 来てたんだよ。そしたらママから 叔母さんが亡くなったって 聞いて。ね、ルイ ちょっと止まって。そこ 写真とるから。」

シオンはスプリングコートから 電話を出して、雪と花弁の流れるのを写真に収める。
「なに?おまえ、ブログとかしてんの?」
「なんと なく撮るの!先輩に写真送ったりするし!」

そんな押収をしていたら、すぐにコンビニに着いた。

「どーせ、最後までいるんだろ。それに、受付っーの?どーすんの?」
コンビニで、自分とレンの昼食を 身繕うシオンは、ルイの言葉に 顔を上げた。

「なんで!受付、あたしなの?!」

ルイは 『なすとトマトの滋賀パスタ』を手に、さっさとレジをしに行く。シオンは、折角なので 『滋賀めし弁当』とパックされた、幕の内を 2つ持って、ルイの後ろに並んだ。

「聞いてねーのか。さっき葬儀やのスタッフが、最初だけ記帳の受付は親族お2人さまにお願いしますっていいに来てたぞ。それって俺らしか いねーだろ。」

レジを終わらせた シオンのビニール袋をさらってルイは、元来たようにシオンを腕に 戻る。

「それ、レンに伝えてないでしょ! だいたいさ、香典は受け取らないからって、レンに言われたよ。」
ルイの腕に掴まるしかないシオンは、 受付の件を こう嘆いてみる。

「弔問客の記帳はいるだろ、礼状だすだろうからな。」
ルイはとりつく島もない 言い方だ。
「さすがだねー。ルイは、叔父さんの時で、いろいろわかってるんだよね。」

このシオンの台詞に ルイの足はピタッと止まる。そして、シオンを見下ろして、

「悪りいが、俺。親父ん時は 出てねーんだ。」

そう 言い落とした。
その ルイの目を見上げたシオンは今度は、割りとしっかりと 言い放つ。

「何?レンとルイ、いつからそうなの? ずっと会ってないって、叔父さんの時から?」

「じゃあ なんで、今日は来たの?」

見据えてきたシオンの顔から、視線をそらして、ルイは 傘を差し出した腕ごと、シオンに また歩く事を促した。

「おかんの、お気に入りだったろ、おまえは。」

ほんの一瞬だけで、
ルイの言わんとする事を 感じたシオンは、それとは別の答えをする事にした。

「受付、やっぱり 服 不味いよね。」