「でもさあ、さすがに ママから 叔母さんの あの事。聞いた時は びっくりしたんだよ。」

棺ごしに 叔母を見るシオンは、ただ 独り言のように 話し掛ける。

あながち 弔問客は、シオンだけだというレンの言葉は 間違いではないのだろう。さっきのレンの言葉から考えても、そうなのかもねーと、 シオンもユルく 心の中で賛同だ。

「そうだよ、あたしを、養子になんて条件。」


『三代目』祖父の剛力姫は、南国系の分家筋である 叔父に 嫁いだ。それでも 叔父の出身家に その身を輿入れた わけではない。叔母が、一族の『奥』を視れるよう 夫婦は 滋賀に住まいを 置いたのである。

この土地で 叔母夫婦は 服飾素材の会社を起こし、直営工場を経営した。工場でつくられる、軽量高品質の服地素材 は海外のハイブランドやオートクチュールで 持て囃され 多いに使用され 経営は乗っていく。
もちろん叔父の技術開発があってだが、シオンからみれば、叔母の力は 叔父を支える などというものではなく、叔母よる 経営実権の有り様は会社の『奥』そのものだと感じた。
さらに 叔母が 先見性を発揮して、服飾の軽量素材を 医療分野に転用したのは シオンは最初驚いた。意外な発想だった。
そんな風に叔母夫婦が、 医療生地生産の拡大をした頃だ。

シオンの父親が、海外恐慌のショックを受けて経営破綻をしてしまう。

それで、シオンの父親は、母親の姉妹である 叔母夫婦に、負債の助力を懇願したのだ。
その時に、叔母から出された条件が。

「シオンちゃんを、養女に貰えるなら」。


この事を、シオンは 後になってから 母親に聞かされた。
母には、次女のシオンも含め3人も女の子がいるのだし、口減らしにもなるのじゃないか。何よりシオンが娘のように可愛いと、叔母は父親に話たそうだ。
それを 父親は 負債回避の為、受けたいと 考えたみたいだが、一旦話を持ち帰った父親の話に、 今度は母親は激怒したのだった。

なにより『口減らし』という発想が シオンの母親の逆鱗に触れたと 本人は、シオンに 後で教えてくれた時も 忌まわしげに叫んでいた。

これで シオンの家族は、負債の処理もあり 叔母夫婦とは完全に絶縁となった。母親達 3姉妹の縁も 潰れてしまうほど、叔母が持ち出した、養女の件は 母親の怒りを長年燻らせることとなる。


それが、あの花火の夏休み以降に親戚で 起きた 出来事だった。

「結局、あの夏休、お祖父様は 全部じゃないだろうけど、パパの為に 前もって 家の整理をしてたんだねー。へんな所で 目が早いんだねお祖父様も。」

さて、その後 。

シオンの両親に条件をだした 叔母夫婦の経営も、全く不景気の煽りを受けなかったわけではなくなる。
海外恐慌の余波で 今度は、海外からの資材不足が起きたらしい。それでも、もう一手で免れる所、叔父が急逝したのだ。
すでに、レンの代わりとなって、ルイが 経営を担っていたはずだが、医療業界の進出は、特に 顔のつながりが要因と聞いた。フロントリーダーの叔父がいなくなったのは 致命的だったのだろうか。何より、早すぎる叔父の死は、叔母の勢いを 削いでしまったようだ。
それから、ルイは継いだ、会社を畳んだ。

シオンが いろんな人から聞いた 話は ここまでだ。

「叔母さん、もしさ、あたしが養子に来てたら。何か 違ったかな。」

そう 言葉にして、何故か、シオンは 涙が滲んだ 時。声が 投げられた。


「おまえ、バカ 言ってんじゃ ねぇよ。」

そこに、南国系育ちの 叔父によく似た、目元の濃い ワイルドイケメンが、 喪服スーツのパンツポケットに両手をつっこんで、

いた。

魔王かよ。と、10年以上ぶりに ルイをみた シオンは 唸った。