「悪いけど、母さんのかわりに お通夜に行ってくれない?」

電話の向こうで、 酷い咳をしながら シオンの母親は 申し訳なさそうに頼んできた。
いくら、丁度 信楽に来てるからって 娘の自分に、往診不通の親戚の通夜に出てくれとは 少々無理があるのでは? いや、逃げてるのでは?と、思ってしまう。

「喪服買うの?こっちで 買う場所もわかんないよ…」
旅行カバンの中には、動きやすいカジュアル系の服しかない。そう、考えながら 一応荷物を見てみるシオンに、母親は電話口から いとも簡単に言いはなつ。

「お通夜だし、喪服でなくていいから。ほら、仕事帰りの弔問だって 誰かいてるわ、大丈夫。それに、親戚同士だからっね? 。とにかく、式の場所 送るから。あなた こんなことも なにかと慣れてるでしょ! よろしくっ」
最後にまた 酷い咳をしながら 母親からの電話は切れてしまった。

「もう、自由過ぎるんだから。」

みると、電話に送られてきたのは、会場の連絡先と住所。
「これって、時間とかも自分で聞くってこと?!」と ひとりゴチてみる。

シオンは 仕方なく、この一週間泊まっている 茅葺き宿から 会場までの道順を調べた。
母親がいうには、ようやく告別式会場と火葬場が押さえられた そうだから、 明日が通夜で 明後日が告別式とのこと。
ということは 旅行予定より1日早くして 明日の朝には この宿を出ることになる。

「はあ~。もう何年も会ってない従兄弟なんて、他人でしょ。なんだかなあ。で、なんで今かな~」

せっかく念願かなって予約がとれた 茅葺き一棟貸しの古民家宿。陶芸体験や、農家体験で ゆうに10日間は 借りてたが、仕方ない。

「やりたいことは出来て、行きたい所も行けたから 良しとしよう!!」
とシオンは 独り言をいいつつ納得しておく。
春の信楽と日野は 堪能できたから、旅行の予定は消化済みだ。

シオンは 信楽高原鉄道の時刻表を検索して、出発時間を決めた。
明日は、母親の名代で 通夜式に出る。十年以上ぶりに会う 従兄弟が喪主だという葬儀。

亡くなった滋賀の叔母には 二人の息子がいる。

自分より 確か 3才年上のレイと、2才年上のルイ。

「二人はタイプが真逆の男の子だったんだよね。」

シオンは それだけ思い出して、旅行最後の 宿の布団に入った。

信楽の夜は 普段 住んでいる場所より 格段明かりが少ない。
すっかりこの一週間で 早くに寝るようになった。
それに 電話を切ってから なんだか冷えてきたように感じる。

「もう、春先なのにね。」

さすがに、寝る前には囲炉裏の火も落とす。茅葺き宿の暖房を手元でONにして、シオンは目を閉じた。