そのあとは鳳凰堂を見たり、県神社のそばの茶屋で抹茶と甘味を食べたりしたが、カナは蜂の件ですっかり嫌気が差していたようで、
「なんかもう最悪やわ」
と、不愉快極まりないとも言いたげな眼で泉を睨んでいた。
「一誠くんが動くなって言ってくれたから助かったけど、ほんま泉くん役立たずやわ」
カナの憤りは最後までおさまらなかったが、
「でも美人と花見なんて、粋なもんやで」
などと、泉は意に介する様子もなかった。
帰路、カナが電車で帰ると言って聞かなかったので、
「たぶん京阪やし途中まで送るわ。一誠くん、一緒についてきてもらっていいかな?」
と由美子が言い、一誠とカナの三人で帰ることになった。
この件で泉はへそを曲げたらしく、
「そんならもうえぇわ」
と言い、なんとビートルで三人を置いて帰ったのである。
この、デートにはあるまじきと言わるべき行動に一誠もあきれたが、
「まぁ、三人で仲良く帰ろうや」
フォローにもならないかも知れないが、というような胸中で、三人で宇治橋を渡った。