仕事のこともあったので、翔馬と菜々子は小さな挙式と写真だけは撮った。
保険の扶養の手続きがあるので、会社に報告だけは済ませてあったが、大々的に言うものでもないので、ひっそりとあとは過ごしていたのだが、
「…ちょっと辻さん」
後ろ袈裟で斬るような言い方で、光から声をかけられた。
「結婚、したんですって?」
「えぇ」
翔馬はもはや、ありとあらゆる意味で光の下僕なんかではなくなっていたらしい。
「一体誰が辻翔馬を射止めたんだって、社内の女子はみなさん話題にしてましてよ」
「相手は大学の後輩です」
後輩では仕方ないか、というような顔をした光は、
「…おしあわせに」
とだけ告げると立ち去った。