飛び込みから法人向けのルート回りに変わっても、翔馬の手堅い仕事は変わらず、
「今回の担当、辻さんでお願いできませんか?」
と指名してくる顧客もある。
「辻主任もそろそろ課長ですかね」
と、課長の内定を打診されるようになった、菜々子の誕生日が近づいた夜、翔馬は夕飯の洗い物をする菜々子を呼んだ。
「菜々子に一つだけ頼みがある」
そう言って、翔馬は一枚の書類を取り出した。
「婚姻届」
という文字が見えた途端、菜々子は顔を覆って泣き出してしまった。
「…こんな私なんかで、いいの?」
もともと半分コールガールみたいなことしてたコンパニオンだよ、と菜々子は引け目を感じていたらしい。