翔馬を送ったまでは良いのだが、このまま帰る気になれなかった菜々子は、そのまま翔馬が眠るソファの脇でぼんやりスマートフォンを触りながら過ごしていたが、やがて伏せて眠っていたらしい。

「…綱島、帰らなかったのか」

 起きた翔馬は菜々子の寝顔を初めて見た。

「そういや、いつもそばにいてくれたんだよな…」

 窓に目をやると夜明けが近い。

「綱島のために、頑張ってみるか」

 菜々子が眠そうに目をこすりながら起き出した。

「先輩おはよ」

 運ぶの大変だったんですから──菜々子のセリフを、翔馬は唇で塞いだ。

「…いつもゴメンな」

「急にどうしたんですか?」

「俺、綱島…いや菜々子のために、もう少し頑張ってみる」

 初めて名前で呼び捨てにされたので菜々子はちょっぴり驚いたが、

「…私はずっと待ってたんですよ」

 待たせたんだから頑張ってくれなきゃ困ります──菜々子は、翔馬の背に腕を回すように抱き締めてから、

「私は運転しないから、事故でいなくなることはないですよ」

 菜々子なりの、情愛の示し方であったのかも知れない。