最終的に四十九日の際、形見分けがあったのだが、そのとき希の父親から、
「あの子はこれを大切にしていました」
そう言われ渡されたのは、希のために翔馬がプレゼントした、シルバーのナースウォッチである。
「いつも鞄につけていましたが、事故の日だけはつけていませんでした」
との話で、確かに無傷で時を刻んでいる。
「翔馬さん、あなたはまだ若い。希の分までしあわせになって下さい」
というメッセージカードが添えられてあった。
その帰路、翔馬はいつもの川崎駅のそばのお好み焼き屋に寄った。
(ここは連れてきてなかったな)
お好み焼きは頼まず、つまみとワイン一杯だけを頼んで、それを飲み干すと、
「…帰るわ」
そのまま川崎新町のアパートへ帰った。