ところで。

 その海士部光、アメリカから帰朝し卒業すると、そのまま海士部組に新入社員として入社した。

 配属は総務部で、ごく一般的な会社員として一歩を踏み出したのだが、

「光お嬢さま」

 とか、

「姫」

 などというあだ名がすぐさまついた。

 元来、海士部という少し変わった名字で目立ったところに来て、

「あのお嬢さまは敬語が…」

 とこぼしたのが、光の教育係であった七年先輩の辻翔馬(しょうま)であった。

 ただ一人、女子社員が大多数の総務に配属されていた翔馬は、川崎のありきたりなサラリーマンの末っ子なので、光の挙動が驚きであったらしい。