勤務終わりに本社を出ようとした翔馬を、

「ちょっと待って!」

 光が取りすがるように駆けてきた。

「大切な話があるの」

 光は普段みずからの通勤用に使っている、運転手つきの黒塗りの外国車に翔馬を乗せた。

「今日はこれから時間ある?」

 いつもの(いら)っ気を含んだ口調とは、少し違った。

「録画したアニメ見ながら晩飯食べて寝るだけです」

 文句あるのか、といわんばかりの不満をわざと露骨に出して言った。

「…じゃあ、一緒に食べましょう」

「金ないですよ」

「わたくしが、あなたの家へ行くの」

「いきなり?!」

「一人暮らしの男子の部屋、行ったことないの」

「掃除してないし…」

「気にしないで。…すぐ帰りますから」

 運転手に指示を出して、車を向かわせた。