それでね翔馬さん、と希は、
「私ね、結婚したい人としか寝ないって決めてて」
つまり初めての相手が翔馬であったらしい。
「翔馬さん、上手なんだね。みんな初めては痛いって言ってるけど、全然痛くなかった」
あけすけな物言いに少し翔馬はたじろいだが、
「だからパパにも言った。翔馬さんのことがスクープされたら、引退してそのまま結婚するって」
勝手に決められても困るではないか──言いそうになったが、
「もちろん勝手なのは分かってるし、翔馬さんの気持ちもあるだろうし。でも私、翔馬さんに出逢って、初めて一人が寂しくなくなった」
車中という密室だと、心は開いてしまうものであるらしい。
「だから、これだけは分かって」
赤信号で停まった。
希は、話を聞いていた翔馬の唇を、自分のそれで塞いですぐ離れた。
「…大好きだって分かってくれたら、それでいい」
青信号になると、軽自動車は藤沢から浜須賀を目指していた。