【第11章 『夢月れいかは小説を読む』】


 またも前園さんのアパートで目を覚ますと、前園さんは床の隅っこで小さくなって寝息を立てていた。

 私がベッドを占領していたせいで、前園さんはこんな、猫みたいに寝る羽目になったのだろう。その心意気は紳士的で素晴らしいと思うけど、硬い床で顔を歪めている前園さんを見るとなんだかおかしくて笑ってしまった。

 視界の端に、スリープモードになったままのパソコンがあり、私はその前に座ると、ボタンを押してスリープモードを解除した。

 画面いっぱいに『約束の矛先』の原稿が表示される。どうやら見事完結したようだった。

 ネットに上がっている『約束の矛先』の内容は、日々少しずつ記憶が消えてゆく女性が、恋人の男性に「もしも私があなたのことを忘れたら殺してほしい」と願い、共に生きていく話だ。

 そしてその物語の終盤では、完全に自分のことを忘れてしまった彼女を、恋人の男性は約束通り殺すのかどうかというところで止まっていた。

『約束の矛先』がどのような完結を迎えるのかなど、私にとってそれほど重要なことではなかったけれど、まぁ、目の前に完成原稿があれば読んでみようかな、くらいには思えた。

「前園さんは結局、どんなラストを選んだのかな?」

 独り言をつぶやきながら、ゆっくりと時間をかけて続きを読んだ。そのせいか、たった三話を読み終える頃には一時間も経過していた。

「……まぁ、前園さんらしいラストかな」

 それからほんの少しだけキーボードを叩いて、もう一度ベッドに横になり、眠りに落ちた。