階段を降りる度に、密度の高い空気が顔を撫でる。
聞こえてくるはずだと思っていた野太く、大きな声が聞こえてこなかった。
「うわぁ、美味しそうな匂い!この匂いは…ウィンナーじゃない⁉︎」
アオイが嬉しそうな声を上げる。
「えっ⁉︎…アオイ、ウィンナーの匂いするのか?」
昨日確認した時は、僕と触覚や視覚は共有していなかったはずだ。
一つでもアオイと共有できる感覚があることを知り、少し安心する。
「あっ、そういえば…そうだね!うん、ちゃんと匂いを感じるから、匂いに関しては分かるみたいだね!それより、この美味しそうな匂い嗅いでたら、なんか…お腹空いてきちゃったぁ」
アオイが子供のように、食欲を満たせと要求してくる。
幽霊の食欲を満たす方法を知らない僕は、素朴な疑問をアオイに投げかけてみる。
「いや、幽霊ってお腹とか空くのか?ってかさ、空いてたとしても食べれなくないか?」
「そんな事言われてもなぁ…お腹空いたものは空いたんだもん…」
口を尖らせているように言う彼女から、幽霊のお腹を満たすための解答は得られなかった。
言われてみれば…アオイにつられたのか、自分もお腹が空いてきたような気がする。
洗濯機の回る音が漏れる洗面所の扉を開く。
「わぁ、ワクワクする~!。ねぇ、テツヤ!私、映るかな?」
アオイが、スタッカートのように言葉は弾ませる。
「頼むから、貞子みたいな姿だけは勘弁して…マジで」
ホラー映画の主人公になった気分の僕は、洗面台の隣までゆっくりと足を運ぶ。
そんな僕をよそにアオイが抗議の声をあげる。
「酷いなぁ。もしかしたら、隣にめっちゃ美少女が映ってるかもよ?」
「…もしそうだったら、恋でもしちゃうかもな」
気を紛らわせるために冗談を言ってみたが、アオイから意外な反応が返ってきた。
「やだぁ。幽霊と人間の恋とか、なんかロマンチックじゃない?」
夢見る少女となった彼女の声は、期待に満ちている。
「いやいや、ロマンチックじゃないだろ?ってか、冗談だから真に受けるなって」
これ以上変な方向に行かないように、黄色い声を漏らすアオイをこちらの世界に呼び戻す。
「ちぇ~、テツヤ、つまんない」
現実に戻されて、ふてくされる彼女をよそに、僕は洗面台の手前で大きく深呼吸をして、目を瞑りながら重い足を一歩踏み出す。
「よし、行くぞ…」
「うん、うん!」
その声だけで、子供のように胸を躍らせている彼女の様子が想像できた。
洗面台前に立ちゆっくり目を開こうとした時、頭の中にアオイの大きな声が響き渡った。
「えぇ~!私、テツヤの隣にいるのに映ってないじゃん!何でよ~」
落胆する声を耳に置いて、目を開けると鏡には寝癖頭の見慣れた顔しか映っていなかった。
「ふぅ…」
僕は無意識に安心した声を漏らす。
「ふぅ…じゃないよ!なんで映ってないの?ホラー映画とかだったら映ったりするじゃん!!ホラ、これでどうだ!」
納得がいかないアオイは、なにやら鏡の前で懸命に動き回っているらしい。
「まぁ…現実はそんなに甘くないってことだな…」
蛇口を捻って、朝日を浴びた生温かな水で顔を濡らしながら、俯く彼女の肩を叩く。
「えぇ~。テツヤはさ、見たくなかったの?私の姿…」
項垂れた声が、滴となって洗面台に落ちる。
僕は掌に洗顔料を出し、両手で擦り合わせて出来たキメ細やかな泡を顔につけて、正直な気持ちを彼女に伝える。
「いや、見たくないか?って言われたら見たいけど、半分…怖いって気持ちもある」
白粉を塗ったようになった顔を冷水で流し、タオルで水気を吸い取った後に化粧水で肌を馴染ませた。
「そっかぁ…うわっ、何?…テツヤ、それ、ミントみたい匂いがする」
頭の中で、アオイが訝しげに声かけてきた。
「あぁ、メンソールが入ってるからな。スウスウして涼しいんだよ」
濡れた手をタオルで拭いて、脱衣所から出て、廊下を歩く。
「ふぅん。何か…パパもそんなの付けてた気がするけど、確かに夏とかは涼しくて良さそうだね」
そんなに特別な物でもなかった僕は何故、彼女からそのような言葉が出るのか分からなかった。
「女子のやつには無いのか?」
記憶をたどるアオイが、少し間を置いて答えてくれた。
「ん~…あんまり無いんじゃないかなぁ?、多分」
トイレの前に立ち、僕は最重要項目をアオイに言い放った。
「へぇ…そうなのか、おっと、アオイ、今からトイレに行くから覗くなよ」
「覗かないよ!!私、変態じゃないし!」
アオイの怒った声が、初めて頭に響いた。
触覚や視覚が共有されていないことに感謝しつつ、用を足して、再び洗面所へ向かった。
「鏡に映らなかったし、こうなったらお腹だけでも一杯にならなきゃ!」
ハンドソープで手を洗う僕の耳に意気込む声が聞こえる。
しかし、僕は彼女がどうやって食べ物を食べようとしているかを知らない。
「いやさ、どうやって食べるんだ?」
僕の質問に、即時にアオイが快活な声で答える。
「テツヤのご飯にかぶりつく!」
「おいおい…それをやるならせめて俺が一口、食べてからにしてくれ」
何か案があるのかと期待したいたが、考えが甘かったようだ。
「分かった。りょーかいであります!」
敬礼でもしているかのように、無駄に切れのある返事が返ってきた。
「さて、と…じゃ、行きますか…」
僕は不安と期待が混じる手で、お腹を空かせた幽霊をリビングへと招き入れた。
聞こえてくるはずだと思っていた野太く、大きな声が聞こえてこなかった。
「うわぁ、美味しそうな匂い!この匂いは…ウィンナーじゃない⁉︎」
アオイが嬉しそうな声を上げる。
「えっ⁉︎…アオイ、ウィンナーの匂いするのか?」
昨日確認した時は、僕と触覚や視覚は共有していなかったはずだ。
一つでもアオイと共有できる感覚があることを知り、少し安心する。
「あっ、そういえば…そうだね!うん、ちゃんと匂いを感じるから、匂いに関しては分かるみたいだね!それより、この美味しそうな匂い嗅いでたら、なんか…お腹空いてきちゃったぁ」
アオイが子供のように、食欲を満たせと要求してくる。
幽霊の食欲を満たす方法を知らない僕は、素朴な疑問をアオイに投げかけてみる。
「いや、幽霊ってお腹とか空くのか?ってかさ、空いてたとしても食べれなくないか?」
「そんな事言われてもなぁ…お腹空いたものは空いたんだもん…」
口を尖らせているように言う彼女から、幽霊のお腹を満たすための解答は得られなかった。
言われてみれば…アオイにつられたのか、自分もお腹が空いてきたような気がする。
洗濯機の回る音が漏れる洗面所の扉を開く。
「わぁ、ワクワクする~!。ねぇ、テツヤ!私、映るかな?」
アオイが、スタッカートのように言葉は弾ませる。
「頼むから、貞子みたいな姿だけは勘弁して…マジで」
ホラー映画の主人公になった気分の僕は、洗面台の隣までゆっくりと足を運ぶ。
そんな僕をよそにアオイが抗議の声をあげる。
「酷いなぁ。もしかしたら、隣にめっちゃ美少女が映ってるかもよ?」
「…もしそうだったら、恋でもしちゃうかもな」
気を紛らわせるために冗談を言ってみたが、アオイから意外な反応が返ってきた。
「やだぁ。幽霊と人間の恋とか、なんかロマンチックじゃない?」
夢見る少女となった彼女の声は、期待に満ちている。
「いやいや、ロマンチックじゃないだろ?ってか、冗談だから真に受けるなって」
これ以上変な方向に行かないように、黄色い声を漏らすアオイをこちらの世界に呼び戻す。
「ちぇ~、テツヤ、つまんない」
現実に戻されて、ふてくされる彼女をよそに、僕は洗面台の手前で大きく深呼吸をして、目を瞑りながら重い足を一歩踏み出す。
「よし、行くぞ…」
「うん、うん!」
その声だけで、子供のように胸を躍らせている彼女の様子が想像できた。
洗面台前に立ちゆっくり目を開こうとした時、頭の中にアオイの大きな声が響き渡った。
「えぇ~!私、テツヤの隣にいるのに映ってないじゃん!何でよ~」
落胆する声を耳に置いて、目を開けると鏡には寝癖頭の見慣れた顔しか映っていなかった。
「ふぅ…」
僕は無意識に安心した声を漏らす。
「ふぅ…じゃないよ!なんで映ってないの?ホラー映画とかだったら映ったりするじゃん!!ホラ、これでどうだ!」
納得がいかないアオイは、なにやら鏡の前で懸命に動き回っているらしい。
「まぁ…現実はそんなに甘くないってことだな…」
蛇口を捻って、朝日を浴びた生温かな水で顔を濡らしながら、俯く彼女の肩を叩く。
「えぇ~。テツヤはさ、見たくなかったの?私の姿…」
項垂れた声が、滴となって洗面台に落ちる。
僕は掌に洗顔料を出し、両手で擦り合わせて出来たキメ細やかな泡を顔につけて、正直な気持ちを彼女に伝える。
「いや、見たくないか?って言われたら見たいけど、半分…怖いって気持ちもある」
白粉を塗ったようになった顔を冷水で流し、タオルで水気を吸い取った後に化粧水で肌を馴染ませた。
「そっかぁ…うわっ、何?…テツヤ、それ、ミントみたい匂いがする」
頭の中で、アオイが訝しげに声かけてきた。
「あぁ、メンソールが入ってるからな。スウスウして涼しいんだよ」
濡れた手をタオルで拭いて、脱衣所から出て、廊下を歩く。
「ふぅん。何か…パパもそんなの付けてた気がするけど、確かに夏とかは涼しくて良さそうだね」
そんなに特別な物でもなかった僕は何故、彼女からそのような言葉が出るのか分からなかった。
「女子のやつには無いのか?」
記憶をたどるアオイが、少し間を置いて答えてくれた。
「ん~…あんまり無いんじゃないかなぁ?、多分」
トイレの前に立ち、僕は最重要項目をアオイに言い放った。
「へぇ…そうなのか、おっと、アオイ、今からトイレに行くから覗くなよ」
「覗かないよ!!私、変態じゃないし!」
アオイの怒った声が、初めて頭に響いた。
触覚や視覚が共有されていないことに感謝しつつ、用を足して、再び洗面所へ向かった。
「鏡に映らなかったし、こうなったらお腹だけでも一杯にならなきゃ!」
ハンドソープで手を洗う僕の耳に意気込む声が聞こえる。
しかし、僕は彼女がどうやって食べ物を食べようとしているかを知らない。
「いやさ、どうやって食べるんだ?」
僕の質問に、即時にアオイが快活な声で答える。
「テツヤのご飯にかぶりつく!」
「おいおい…それをやるならせめて俺が一口、食べてからにしてくれ」
何か案があるのかと期待したいたが、考えが甘かったようだ。
「分かった。りょーかいであります!」
敬礼でもしているかのように、無駄に切れのある返事が返ってきた。
「さて、と…じゃ、行きますか…」
僕は不安と期待が混じる手で、お腹を空かせた幽霊をリビングへと招き入れた。