シーンと静まり返ったホールを後にして、足早に歩いて距離ができたことを確認すると、僕は堪えていた感情を解き放った。
 ああ、みんなの同情が堪らない!
 惨めさを味わうには、タイミングが必要だ。観客から最大限に引き出した同情は、快感を味わうためにはなくてはならないスパイスだ!
 きっと今日一日は、みんなの視線を背中に感じて、ぞくぞくした高揚感を楽しめるだろう。
 そのために僕は努力したのだから……。

 ここに入って間もなく、首位で合格したという噂の小島に目を付けた。
 発表された小テストなどの点数をチェックし、小テストが無い教科は、分からないふりをして小島に質問して彼の理解度を測り、中間テストの合計点を予測した。
 さっき成績発表を見た時は、予測より低い小島の点数に驚き、危うく勝ってしまうところだったと頬が引きつったが、その表情を目にした生徒たちは、僕がショックを受けたと誤解して、舞台効果を盛り上げるのに役立ってくれた。

 1点差だっただけに、その場にいたクラスメートは余計に僕に同情し、みんなの顔に浮かんだ痛まし気な表情が、全部僕に向けられた瞬間、思わず快感で蕩けるところだった。
 下唇を噛んだ痛みで、何とか隠れた性癖を暴露せずにすんだが、いつバレるかとひやひやする。
 ああ、でも、バレて蔑みの視線を浴びるのも、いいかもしれない。