突然、市野瀬くんが私のことを呼んだから、私は驚き過ぎて声が出なかった。

 ……って。

 ……ん?

 ……‼

 今……市野瀬くん……。


「呼んだ」


「は?」


「市野瀬くん、今、私のこと『佐伯』って呼んだ‼」


 私は身を乗り出すように市野瀬くんの方を見てそう言った。


「な……なんだよ、それがどうしたんだよ」


 私の勢いに少し驚いている様子の市野瀬くん。


「だって……だって市野瀬くん、いつも私のこと呼ぶとき『お前』とか『おい』とか、そんなんだったじゃない」


「そ……そうだったか」


 市野瀬くんは少し困った様子。


「そうだよ‼」


 私は興奮が止まらない。


「そ……それより話がある」


 そうだった。
 市野瀬くんが私のことを呼んだのは話があるからだよね。


「あっ、ごめんね、私ったら、つい興奮しちゃって」


 なんだろう。市野瀬くんから私に話があるなんて珍しい。


「なぁに、市野瀬くん、話って」


「……ああ……」


 市野瀬くん?


 市野瀬くんはとても話しづらそうにしていた。