そのとき市野瀬くんは下を向いていた。


「市野瀬くん」


 私は覗き込むように市野瀬くんのことを見た。


「なんだよ、じろじろ見るなよ」


 市野瀬くんが声を出してくれた。


「そんなに私にじろじろ見られたくなかったら、私と友達になって」


 私は市野瀬くんのことを覗き込みながらそう言った。


 ……私。

 自分でもびっくりしている。

 私は、こんなにも積極的なところがあったのかと。

 違う。

 本当の私は積極的なのかどうかはわからない。

 ただ、市野瀬くんと友達になりたい一心で。

 そのために今、私は積極的になっている……のだと思う。


「ねぇ、市野瀬くん」


 私は、しつこいくらいに市野瀬くんのことを呼んだ。


「……ぁぁ」


 え……?


「市野瀬くん……今、なんて言ったの? よく聞こえなかった」


「……だから、『ああ』って言ったんだよ‼」


「市野瀬くん……」


 私は嬉しくて、これ以上言葉が出なかった。


 市野瀬くんと友達になることができた。


 それが私にとってものすごく幸せなことだった。


 のだけど。