「でもね、昔は少女マンガを読んでるとき以外でもニコニコしてたのよ。いつからこんなふうになってしまったんだか」


 香織さんは少し困ったような顔でそう言った。


「そうだったんですか」


 昔の市野瀬くんはニコニコしてたんだ……。

 やっぱり本当の市野瀬くんは心の優しくて穏やかな男の子なんだと思った。

 きっと何かがあって今のように悪ぶっている態度をとっているのかもしれないと思った。


 ……あっ。

 そういえば市野瀬くん。


 市野瀬くんのことが気になった私は市野瀬くんの方を見た。


 香織さんと来未さんが話を続けていても市野瀬くんは何も言ってこなかった。

 言ってこなかったというより、まだ銅像のように固まり続けているから言うことができないだけなのかもしれない。

 そう思っていると。


「大翔‼」


 来未さんが、銅像のように固まっている市野瀬くんの顔の前でポンっと手をたたいて市野瀬くんの意識を取り戻させた。


「うわっ、なんだよ」


 市野瀬くんの意識が戻った。