「ごめんね、市野瀬くん、よく聞こえなかった」


 私が市野瀬くんに訊き返して見ると……。


「見た……か……?」


「え?」


 見たって何を……?


「……今の……オレが……落とした物を……」


 市野瀬くんが落とした物……。


 一瞬しか見ていないけど、市野瀬くんが落とした物は見えた。


 なんか……少女マンガ……だったような……。


「……うん……」


 と、正直に返事をした方がいいんだよね……?


「……ということは……それが何か……はっきりと……見たって……ことだよな……?」


 市野瀬くんにそう訊かれたので、


「……うん……」


 と、ここも正直に返事をしてもいいんだよね……?


「……何を……見た……?」


「え……?」


「オレが今、拾った物はなんだったのか……見たんだろ……?」


「……うん……」


「……答えろ」


 市野瀬くんの表情は、いつもの険しい顔に戻っていた。

 でも、いつもの市野瀬くんと一つだけ違うのは、険しい表情の中にもどこか焦りを感じるような表情が混ざっていること。