店に引き返そうかとも思ったが、挨拶もしたあとなので決まりが悪い。それに店もピークタイムなのか混み始めていたし、今戻っても迷惑になるだろう。それに……。
「……いっか。〝また来てね〟って言ってたし」
真に受けたぞ俺は。営業トークだろうけど、真に受けたぞ!
店にとってはいいカモなんだろうなと思いつつ、カモになってやろうじゃねぇかと謎のやる気に満ち溢れていた。〝御礼がまだだ〟という口実までできて、俺は絶対にまたあの店に行くことが確定した。
……バイト、増やそうかな……。
「はー……」
細く長く息を吐く。
それと同時に、夜風に吹かれて桜の花びらが舞う。春だなぁ。
絹さんの言ったとおりだった。酒は程よく残っているだけで、帰り道で気分が悪くなることもない。火照った頬を夜風がゆっくり冷ましてくれる。心なしか足取りが軽い。鼻歌でも歌いたいような、そんな愉快な夜。
そういえば、と俺はズボンのポケットからスマホを取り出し、さっき絹さんが作ってくれた酒について調べてみる。
スクリュードライバー。
検索するとすぐに複数のレシピがあがってきた。
「……自分でも作れんのかな」
あの人が作ったものとまったく同じにとはいかないだろう。でもそれに似たものなら、材料と道具さえあれば、俺にも作れるのではないか。
