「大丈夫?」


 薄紫色の光の中で、その人は不安げな顔で俺を見下ろしていた。髪は毛先まで綺麗に染められた透明感のあるグレージュ。パッチリとした瞳に、凛々しくて知性的な顔立ち。

 つい「うわ……」と声を漏らしかけた。それほど強烈な、目の覚めるような美女だった。

 何かそういう……グラビアとかじゃなくて、格式高い写真集の中からそのまま出てきたような。形のいい唇も、なめらかな色白の肌も、後ろでひとつに結われているふんわりとした髪も、サイドに少し残った垂れている髪も。

 全部が完成形で。完璧で。何物にも代えがたく美しい。

 国語の成績がずっと微妙だった俺をポエマーに変えてしまうほど、彼女は本物の美人だった。顔のパーツのみならず身に纏う空気すら、他の人とは違う。

 自分とは別次元で生きている人が、偶然この次元に現れてしまったみたいな特異感。


「ねぇ起きて。こんなところで寝てたら死んじゃうよ」


 その人は俺の体を揺さぶり、声をかけてくる。こんな道端に転がってる男なんて、できるものなら放っておきたかっただろうに……。