ヘタレな俺はウブなアラサー美女を落としたい


 今朝とはまるで印象が違う。物や調度品の配置なんかは何も変わっていないのに、初めて訪れた場所のように錯覚する。

 そしてすぐ、バーらしい音が聞こえてくる。そちらに顔を向けると襟付きの白シャツに黒のベスト、蝶ネクタイ姿の女性が、お馴染みの銀の容器を両手で持って立っていた。

 その正体に気付いた瞬間、全身が強くさざめいた。
 ――絹さんだ。

 彼女は銀の容器を胸の前で構え、〝シャカシャカ〟と音をたてながら斜め上、斜め下へと交互に突き出し、軽やかにシェークしていた。


(うっ……わ)


 しばらく気配を消して魅入ってしまうほど、その姿に夢中になる。

 結構激しい動きに思えるのに、絹さんはなかなかどうして涼しい顔でいて、それがより彼女の格好よさを引き立てていた。

 首から掛けるタイプの背布がない黒ベスト。パリッとしていて華のある白シャツ。下はベストと同様に深い黒色のソムリエエプロン。すらりとしたシャープなシルエットは、それだけでもう最高に格好いいというのに。

 シャカシャカとシェークする動きを止めると、絹さんは容器の蓋を開けて口を下方へ傾ける。グラスは脚の部分が長くてカップ部分が丸みを帯びた、日常生活ではあまり使わない種類のものだった。注がれた液体は不透明な淡い緑色。上の部分は細かな泡が立って白くなっている。