――しのもり、きぬ。
大事に大事にその六文字を噛みしめて、心に刻む。しのもりきぬ。
名前まで美人なのかよと思って、でも口には出せなかった。いつもなら軽率に言葉にして口説いているところだ。だけど今は言えなかった。
〝玉砕してもいい〟とはとても思えなくて、言えなかった。
絹さんは鼻歌でも歌い出しそうなくらい機嫌のいい表情で、目を伏せて言う。
「もうあんな飲み方はしちゃダメだよ」
子どもに言って聞かせるような言い方に、俺は「あ、はい」と。
ドキドキしながら最後まで食べたカレーの味を、俺は一生忘れないんだと思う。
篠森絹という女性に助けられ、お手製のカレーを振る舞ってもらった。あのあと自宅の学生アパートに戻ってシャワーを浴びた俺は、〝一連の出来事は全部夢なのでは?〟と思い始めていた。
(いやいやいや……)
夢で片付けちゃダメだろ、あれだけ迷惑をかけておいて……。
濡れた髪をタオルでガサガサ拭きながら、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出してソファにどかっと座る。
そういえばメッセージがきてたんだっけか。ローテーブルに置いていたスマホを拾い上げ、水で喉を潤しながら確認する。差出人は一昨日の夜にクラブで絡んだ同世代の女子だった。〝今度はふたりで遊びたいな~ 〟というメッセージのあとに、意味深にこちらを見ている動物のゆるキャラスタンプ。
