みのりが帰ったあとの深夜、大介は珍しく夜中にカスタムカブを転がして生麦ベースを出た。
東海道をひたすら西へ、西へとスロットルを開く。
ただ無心で、何か一つのことを振り切って集中したかったのかも知れない。
小田原で給油し箱根を越え、沼津の辺りで給油し、静岡を抜け初日は掛川で素泊まりし、二日目は浜松で途中に給油したあと、名古屋でカプセルホテルへ。
三日目は、鈴鹿峠を越えて信楽へ。
専門学校の実習で来て以来の信楽は、大介が来た当時とは少し変わっていた。
信楽で給油したあと北へ進路を変え、近江八幡での給油を経て彦根へ着く頃には、夕暮れの琵琶湖の水面が七色にきらめいて、茜色から紫を帯び、群青の夜が濃紺、さらに闇へ変わる空を、何の感懐もなく、子供の頃よく遊んでいた松原の水泳場から眺めていた。